東京大学金融教育研究センター
Japanese
English
Center for Advanced Research in Finance
お問い合わせ
サイトマップ
サイト検索
CARFホーム
センター紹介
ファカルティ
ワーキングペーパー
リサーチ
世界からのメッセージ
アクセス・マップ
リンク集

*「財政破綻後の日本経済の姿」に関する研究会:これまでの経過と内容  

 これまでの活動の経過と内容を含めて「『財政破綻後の日本経済の姿』に関する研究会」の関連情報を適宜掲載します。

   研究会メンバー名簿(2012年8月9日現在)
  ただし、名簿掲載を了承したメンバーのみ。所属機関については、名誉教授あるいは前職を含む。

井堀利宏 東京大学 貝塚啓明 東京大学
三輪芳朗 東京大学・大阪学院大学 林正義 東京大学
新井富雄 東京大学 大橋弘

東京大学

橋本英樹 東京大学 柳川範之 東京大学
福井義高 青山学院大学 太田亘 大阪大学
大森正博 お茶の水女子大学 西村周三 社会保障・人口問題研究所
中里透 上智大学 加納隆 一橋大学
斉藤都美 明治学院大学 田中秀明 明治大学
倉澤資成 横浜国立大学 小西秀樹 早稲田大学
   

ワークショップトップ

回・開催日 概要

第22回
2014.10.3
(金)

 債券の取引はほとんどが店頭市場で行われ、主たる取引参加者が少数のプロの投資家に限定されているので、株式市場と比較してその実態が外部者にはわかりにくい。今回の研究会では、主として調査分析を中心に長年にわたり日本国債市場において仕事を続けてこられた角間和男氏(現 野村アセットマネジメント)に「日本の国債市場と投資家行動」というタイトルで国債市場の「内部者」の立場から報告をしていただいた。
 政府債務の膨張と予想インフレ率上昇を背景に国債暴落を懸念する人は多い。一方で、長期金利にはむしろ低下圧力がかかり、史上最低水準にある。両者の不整合性の原因と持続性について考える材料を提供していただきたいというのが研究会メンバーから角間氏にお願いしたことである。
 日本の財政状況は、たしかに数字の上では危機的な状況にあるが、国債の保有構造特性から直ちに危機が表面化する可能性は低いと市場は見ている、というのが角間氏の見方である。ほぼ国内で閉じた資金循環の中で、国債を買い支えているのは実質的には家計の金融資産であり、こうした家計金融資産保有特性が金融機関の投資行動に反映され、長期金利は上昇しにくい構図ある。影響が大きいのが銀行、保険、年金を経由した資金の流れで、これに最近の日銀を経由した流れが加わり、これらのチャネルで国債に伴う金利リスクの大部分が負担されている。日銀の金融政策が今後も最大の相場変動要因だが、日銀のオペ以外では、近年影響力が強くなっているのが生命保険である。その負債特性の変化を含めて生命保険の今後の動向は要注意である、という指摘がなされたのが注目される。
 研究会における今後の議論の参考になる様々なソースからの広範なデータに基づく分析をしていただいた角間氏に感謝したい。
 角間氏の報告用ファイルは以下からダウンロードできる。

*このページのトップに戻る

第21回
2014.8.27
(水)

 日本の深刻な財政危機状態や2%の物価上昇率を目標に掲げる日銀の歴史的な積極的金融緩和策が続行されるなか、8月末時点の長期債の最終利回りは0.5%を下回っている。ある意味、不可解な現象である。われわれは過去2年間「現状の日本でなぜ国債価格の大幅下落、急激なインフレを伴う「財政破綻」は現実化しない、その予兆も見えないのはなぜか・・・?」という問題意識を抱き、研究会を続けてきた。そして過去数回の研究会では、日本の国債価格の形成メカニズム、とりわけ投資家の期待形成メカニズムや資産選択行動を解明する糸口を求めて関連するファイナンス研究について見てきた。
 今回は福井が、Peter Bossaerts [2002] The Paradox of Asset Pricing, Princeton University Pressを取り上げて報告を行った。資産価格評価モデルには、その他の証券の価格を所与として無裁定条件の下での相対価格をもとめるRelative Pricingと期待効用最大化に基づく最適化行動と均衡概念に基づく資産価格モデルの構築と検証を行おうとするAbsolute Pricingの2種類がある。今回対象にするのは後者である。Absolute Pricingの代表的なモデルにはCAPMやCCAPM等がある。これらモデルでは主観的確率分布と客観的確率分布が一致する(correct belief)というLucas(1978)型の合理的期待を前提にして理論が構築される。これにリターンの分布が時間に依存しないという定常性の仮定を追加してモデルの実証が行われている。しかし、実証研究の結果、CAPMもCCAPMも過去のリターンを上手く説明できてこなかった。その代表例がMehra/Prescott(1985)の指摘したEquity Risk Premium Puzzleである。このPuzzleに対応してHabit Persistenceを導入したり、危険回避度と異時点間代替率を分離した各種のRecursive Utilityが提案されてきたりした。
 こうしたファイナンス研究の流れに対して、Bossaerts [2002]は、「そもそも、投資家の合理性として、時系列で次々に与えられる情報を正しく理解することを超えて、あらゆる事象の事前確率を正しく予測することまで要求すべきなのか?」として、パラメータを追加することで「説明」しようとするアプローチに疑問を呈している。Bossaertsは理論のクリーンなテスト方法として実験経済学の研究に力を注ぎ、correct beliefも定常性も仮定せず、correct/efficient learningのみを仮定したEfficiently Learning Market(ELM)を提唱した。これは最初の事前確率は間違っていても、投資家はベイズ・ルールに従って時系列的に事前確率を正しく修正して行くというモデルである。そしてこのモデルを ポストIPOアノマリーの分析などに適用して分析している。Bossaerts自身は最近では実証ファイナンスの研究を「廃業」しているが、彼の提唱したELMはSargent に注目されCogley/Sargent(2008)に応用されている。Cogley/Sargent(2008)は1929年以降の大恐慌で投資家は過度に悲観的なbeliefを形成したが、こうした間違った事前確率を持って出発しても長期的にはベイズ・ルールに従って事前確率は正しく修正され、Risk Premium Puzzleを「解決」するシミュレーション結果を示している。  報告に対しては、Bossaerts の著作は2002年に出版された著作であり、現在時点から見ると内容がやや古くなっているのでないか、という指摘がなされた。「特に、金融危機後、ファイナンス研究において従来からのアプローチ以外の様々なアプローチが提案されており、現在は次代のファイナンス研究の方向の模索期にある。Bossaerts の”Efficient Market Hypothesis” に対する批判が的を射たものであることやELMが興味深いアプローチのひとつであることを否定するものではないが、最近のファイナンス研究を代表するものであるか否かに関しては疑問である。」というコメントである。
 なお、福井の報告の後、三輪から現時点および近い将来の日本国債価格に関する同報メールを通じたオープン・ディスカッションに関する提案がなされた。詳しくは添付ファイルをご覧いただきたい。
 福井、三輪の報告用ファイルは以下からダウンロードできる。

*このページのトップに戻る

第20回
2014.6.20
(金)

 現政権下の経済政策は、非伝統的な金融政策をはじめとする大胆な財政金融政策の採用によって人々の期待形成に働きかけようとしている、としばしば指摘されている。しかし、人々の期待がどのように形成されるか、そもそも人々の期待は多くの経済理論で想定されているように合理的なものなのか、等は必ずしも明らかではない。
 金融システム研究フォーラムとの合同研究会である今回の研究会では、投資家の期待形成に関して議論した。まず、投資家の期待形成を取り扱った最近の研究であるGreenwood/ Shleifer (2014)に基づいて、新井がその研究概要を紹介するとともに、彼らが米国市場で見いだしたのと同様な事象が日本市場についても観察されるか否か簡単に検討した結果を報告した。Greenwood/ Shleifer (2014)は、機関投資家および企業の財務担当者等を対象に行われてきたGalupなど6つのソースのサーベイ調査に見られる株式の将来リターンに関する投資家の期待について分析した論文である。多くのファイナンス研究者の間では、従来、この種のサーベイ調査は、信頼性が低いとして軽視されてきた。しかし、Greenwood/ Shleifer (2014)は、6つのソースのサーベイ調査を分析した結果、これらの調査結果は、決してランダムな雑音ではなく、多くの投資家の期待を捉えた注目に値する情報を含むものであると指摘している。彼らの主なファインディングは、次の通りである。(1)各ソースおける期待間には高い相関がある、(2)期待は株式ミューチュアルファンドへの資金流入と正の相関を持つ、(3)投資家の期待は、過去1年のリターンが高ければ(低ければ)、今後1年のリターンも高い(低い)と予想するという外挿傾向を持つ、(4)投資家の期待は配当利回り等の変数を用いたモデルに基づく期待リターン(ER)と負の相関関係がある、(5)期待は株式市場の将来パフォーマンスと弱い負の相関がある。
 こうしたファインディングをもとにGreenwood/ Shleifer (2014)は、以上の結果は、単一の代表的なエージェントを想定した従来のモデルと整合的ではなく、前述のファインディングを上手く説明する別のモデルが必要であると主張している。GreenwoodとShleiferの2人も共著者になっている最近発表された”X-CAPM: An Extrapolative Capital Asset Pricing Model”と題されたBarberis/ Greenwood/ Jin/ Shleifer (2014) は、こうした問題意識に対して彼ら自身が出した答えであると考えられる。彼らのモデルでは、複数の異なる行動を取る経済主体が市場に存在すると仮定して資産価格モデルが構築されている。
 一方、日本の機関投資家の株式の将来リターンに関する期待にもGreenwood/ Shleifer (2014)が、見いだしたのと同様な現象が見られるかをQSS(Quick Survey System)株式調査データを用いて簡単に検証してみた。サンプル期間が短い予備的な検証結果に過ぎないが、次のような結果が得られた。(1)日本の機関投資家の将来リターンの期待は、Greenwood/ Shleifer (2014)が米国の投資家について見いだした外挿型(モーメンタム型)と異なり、過去の一定期間のリターンが高(低)ければ将来のリターンは低(高)いだろうと予想するリバーサル型であるという違いがある、(2)ただ、投資家の予想した将来リターンが的中しないという点においては米国と日本は共通している、(3)米国と同様に、日本市場でも配当利回りが株式の将来リターンをある程度予測する傾向が見られる。
 近年では、東証1部の委託売買の6割以上を海外投資家が占めるという数字に見られるように、現在の日本の株式市場は米国と異なり国内投資家中心の市場ではない。そのため、日本では株価見通しについて投資家サーベイを行う場合、国内投資家だけを対象にするサーベイでは不十分であると考えられる。
 なお、近年の日本の株式市場では海外投資家が買い(売り)越した月は株価が上昇(下落)した月であるという傾向が観察される。逆に、国内投資家は逆張りで、株価が値上(下)がりした月に売り(買い)越している。この現象は、一見、Greenwood/ Shleifer (2014)が指摘するように米国など海外投資家の期待は外挿的であり、一方QSS調査に現れているように国内機関投資家の期待はリバーサル型であるということと整合的であるように思われる。
 仮に、Barberis/ Greenwood/ Jin/ Shleifer (2014)が行ったように、市場に異なる行動様式を持った経済主体が存在すると仮定したモデルで資産価格の形成について考察するにしても、異なる行動様式を持つグループとして、どのようなものを想定するかはいくつかのケースが考えられるであろう。米国の行動ファイナンス研究等で時々想定されるように、(外挿型の)投資家vs.(合理的な)企業という枠組みで捉えるのか。日本の株式市場の場合には、国内投資家vs.海外投資家という枠組みで考えることもできるのではないか。
 今回の研究会の席上では、近年の日本の株式市場に見られる海外投資家主導の価格形成現象は、いわゆる「需給関係」を反映したものではないのか、また、そもそも一言に海外投資家と言っても、グローバルマクロなどの戦術をとる短期売買型のヘッジファンドも存在するし、ファンダメンタル分析に基づき長期投資を行う機関投資家も存在するので、「海外投資家」としてひとまとめにして論じるのには無理があるという指摘もなされた。さらに、グローバル・ポートフォリオ運用の一環としての日本株投資としての評価ということになると、ファンダメンタルズと株価との関係についても1国モデルよりも相当複雑なものになるであろうという指摘もなされた。
 報告用ファイル(Shleifer教授のslides等をもとに作成したもの)は以下からダウンロードできる。

*このページのトップに戻る

第19回
2014.2.20
(木)

 今回は、福井義高氏から「2013年ノーベル経済学賞に見るファイナンス実証研究の動向」と題する報告を受けて討議した。今回も「金融システム研究フォーラム」との共催である。2014年に入ってからも国債を中心とする日本の資本市場、さらに日本経済が平穏かつ安定的に推移している。このような少なくとも一部の参加メンバーにとって「想定外の事態」の発生原因・メカニズムに注目して、ファイナンス分野の研究、とりわけ実証研究の進展がその理解の参考にならないかと考え、取り上げてみることとした。
 近年のファイナンス研究は、いろいろな理由から私のような専門外の研究者にとって敷居が高く、いかなる研究が展開され成果が実現しているのかなかなか見当がつかない。日本のファイナンス研究者の世界で理論家の比重が高いこともあり、実証的視点に基づく関心を満たすのは容易でない。今回のノーベル経済学賞は、ファイナンス分野の実証研究に焦点を合わせたものである。“Understanding Asset Prices”と題するThe Economic Sciences Prize Committeeの授賞理由説明文についても、これならなんとかなりそうだと考えた。とはいえ、活動期間が長くかなりタイプも異なる3名の研究者への授賞決定後に作成された文書である。「今日では多くが常識として定着してしまった内容を並べた、こんな散漫な文章をわれわれに『報告』しろ・・・というのではありませんよね」と言われ、報告を福井さんにお願いして、ファイナンス研究者にも積極的に議論に参加していただいた。報告では、この文書の内容を基礎とし、インフレ期待と貯蓄・投資の配分を念頭に置いて、consumption-CAPMに関わる研究に焦点を合わせることをお願いした。(ちなみに参加者の多くは「行動ファイナンス」と呼ばれている研究分野にほとんど関心がないし、この表現自体に強い違和感を覚えている。また、授賞理由を解説する文書が公表されていることを今回初めて知ったメンバーがほとんどであった。)
 もちろん、「これで日本国債の価格の現状がうまく理解できる」などと期待したわけではないし、結果として「少しは理解できるようになった」ということもない。状況を象徴する、長期間にわたって “equity premium puzzle”をめぐって展開された一連の研究の現状を見て、実証研究のむずかしさを改めて痛感した(ここで注目している実証研究の方法は、多くの研究分野で主として用いているt検定ではない。念のため)。残念ながら、私は「まだやるべきことが多くあって楽しみだ・・・」と武者震いするほど若くはない。
 授賞理由説明文の13頁のevent-studyの図(dividend announcement dayでcumulative average abnormal returnが一挙に上昇し、その前後では安定しているという図)について、「本当なの・・・?」と当日大いに話題になった。後日、参加メンバーの一人が原論文にあたって確認したところ、少なくとも曖昧なところがあり、集計対象の一部を選択したもの(その方法は必ずしも明確ではない)だとのことである。受賞者決定後に、おそらくは3名の研究者についてもっともらしくバランスの良い授賞理由解説文の作成が依頼されたのだろう。専門家ではない私のような人間の目から見ても苦心・苦労の跡が見えるような気がする。ざっと眺めることを目的とするのではなく、関連分野の勉強のための入り口として手にする文献としてはあまりお勧めではない。
「想定外の事態」だとしても「あり得ない事態」だと考えているわけではない。高齢の生活者として「『想定外の事態』ですねえ・・・」と言いつつ、「天災は忘れたことにやってくる・・・ともいう」という気分で春を迎えている。面倒な課題と要望に応える報告をし、飛び交う多様な質問・発言にも要領よく対応していただいた福井さんに深謝します。
 Reference付きの報告用資料は、以下からダウンロードできます。

*このページのトップに戻る

第18回
2013.12.3
(火)

 今回の会合も金融システム研究フォーラムとの共催である。今回は、福井義高氏から「銀行規制と国債管理:発想の転換のすすめ」と題する報告を受けて討議した。議論の題材の素材は、Admati and Hellwigの2人の経済学者によるThe Bankers’ New Clothes (2013, Princeton University Press)と題する書物と、この書物の書評を含むCochraneの一連の論説(ほとんどがWall Street Journalに公表されたもの)である。2時間以上に及んで議論は盛り上がり、「こんな単純明快な主張が日本でほとんど話題にならないのはなぜか?」「すぐにでも受け入れられるのではないか?」「そもそもこれほどの分厚い本を書く必要があったか?誰を読者として想定しているのか?」などという見解まで登場した。
 発端は、福井氏から三輪に「こういう面白い意見について研究会で一度取り上げませんか?」というメールとともにWall Street Journal掲載のCochraneの論説が送られてきた。書評を読んで興味を持っていた三輪との間にすぐ合意が成立した。話題提供を福井さんにお願いして会合を開くまでに数カ月を要した。
 Lehman Shockと呼ばれる一連の「混乱」に刺激されて銀行を中心とする金融機関に対する規制の強化が必要だとされ、従来以上に高い水準の自己資本比率が求められることになった。Macro prudenceが合言葉である。Lehman Shock以前から自己資本比率規制の有効性・効率性に対する疑問が強く表明されていたが、Shock後の混乱の中で、そのような疑問が注目されることはなかった。“Financing in the Dark”と題するRomano Yale Law School教授の最近の論文冒頭の次の記述に同意する読者が多いだろう: “How should one regulate in the midst of a financial crisis? … Foundational legislation tends to be enacted in a crisis setting, and over the past decade, when confronted with this question, the U.S. Congress has answered it reflexively by enacting legislation massively increasing the scope and scale of the regulation of business firms, and especially, financial institutions and instruments, seemingly obliviously to the cost and consequences of its actions.”
 「どうせならもっと高い自己資本比率を求め、銀行融資の資金源は基本的に自己資本によるようにすれば、こんな問題は発生しない」などという見解に対しては、「銀行の特殊性を知らない素人の戯言だ。過剰な資本は銀行経営を非効率化する。資本は高コストなのだ・・・」などとする批判・冷笑が浴びせられる。批判以前に、銀行規制の「専門家」はこのような見解に注目もしないだろう。2人の著者は、資本は高コストだとする「常識」「通念」は誤りだとする論文を公表して、各方面から浴びせられる批判・反論に粘り強く反論したうえで、冒頭に紹介したような見解を表明するファイナンス研究者ではない実務家を中心とした広範な読者に向けて分厚い書物を執筆した・・・とうのが三輪の推測である。
 The Bankers’ New Clothesとは新たに課せられた規制のことであり、これを身にまとった銀行家たちに「王様は裸だ・・・」と叫ぶ役割を2人の著者が果たしていることになる。どちらかといえば経済活動に対する政府の積極的関与を支持する傾向がある2人の著者の主張に、政府規制の有効性にきわめて懐疑的なCochraneが強く賛同するという観察事実が読者の興味を引くかもしれない。それほど単純明快でrobustな主張なのだと納得する読者も多いだろう。
「銀行は特別だ」とする考え方を自明の前提として、「イザという場合には政府が救済に乗り出す」と銀行家と銀行利用者の双方さらに政府を含む国民全体が考えて行動していることが、銀行を含む関係者の行動を歪め、混乱を大きくし、規制強化を求める結果になっている。前提を見直し、銀行も普通の会社と同じだという点を確認すれば、事態は大きく変化する。Cochraneの表現を用いれば、The bottom line: People who want better returns must transparently shoulder additional riskである。「銀行預金は特別だ。特別な銀行がなければ、個人は少額資産をどこへ預ければよいのか・・・」という声には、たとえば、「そういう資金を受け入れる機関には、リスクの高い融資などではなく、政府短期証券を中心にした運用を求めればよい」ことになる。
2人の理論家による書物は、基本的な考え方を示したものであって、代替的な規制の枠組みの詳細にまで及ぶものではない。重要なのは「発想の転換」である。
冒頭の、「こんな単純明快な主張が日本でほとんど話題にならないのはなぜか?」「すぐにでも受け入れられるのではないか?」とする見解に対しては、「基本となるMM定理の内容を理解し、銀行行動・銀行規制にこれを適用するという発想を受け入れる金融規制の『専門家』が規制当局およびその周辺に数多く存在し、規制論議に重大な影響を与えるという事態は、当面日本では実現しない」として三輪は懐疑的であった。別のファイナンス研究者も同意した。この点で日本が特別であるか否かまでは話題にならななった。
 とにもかくにも楽しめる話題である。用意された福井さんのメモで内容は十分に理解できる。「内容が簡単ですから、すぐに終わってしまうかもしれませんが・・・」としてスタートし、2時間以上にわたって参加者を楽しませる話題を提供してくれた福井さんに深謝します。福井氏の報告用メモは下からダウンロードできる。

*このページのトップに戻る

第17回
2013.11.15
(金)

 今回は、倉澤資成氏から、D.Greenlaw, J.D.Hamilton, P.Hooper, and F.S.Mishkin, “Crunch Time: Fiscal Crises and the Role of Monetary Policy,” Revised July 29, 2013について紹介していただいて討議した。各所で大きな話題になっている100ページにも及ぶ大論文である。NBERのworking paperにもなっている。
 名目GDPに対する政府負債の比率が高くなると、国債金利の上昇を招き、政府負債比率の上昇をもたらす、というループが、政府債務問題を一層深刻にする。これがこの論文の主旨である。まず基本となるモデルが提示される。次いで、過去12年間の先進20か国のパネル・データを用いて政府の借入利子率の回帰式が推定され、たとえば、政府負債/名目GDPの比率と借り入れコストの間に(非線形の)有意な関係があることが確認される。各種の回帰分析に続き、財政危機が金融政策に与える効果に注目し、Fedのバランスシートのシミュレーションによって、2017−2018年には金利上昇により自己資本の数倍の損失を被るため、国庫納付金がゼロとなって、Fedに対する信認の低下が起こることが指摘される。
 資産購入プログラムによる損失の発生が、インフレ期待の上昇を招く可能性があること、さらにそれが金融緩和からの転換を難しくしていることを明らかにし、注目されているようである。
「このままいけばにっちもさっちもいかなくなるし、保有資産を売却して『出口戦略』を推進するとFedが膨大な額の損失を計上することになる。いずれにしても、Fedに対する信認の低下は避けられないのではないか・・・」という予想・不安を抱く多くのアメリカ国民、さらに世界中の人々にとって、「そうなんです・・・」とでも宣言するような内容の大論文である。「エコノミスト」のみならず、実務家や年金受給者を含む普通の国民の間で広く話題になっても不思議ではない。もっとも、例によって、日本ではそういうこともないらしいし、「状況がより深刻な(はずの)日本に関してこの結論がより強くあてはまるのではないか」という観点からの関心も耳にしない。
 いつもの如く、会合での議論は沸騰した。論文の内容を紹介する立場の倉澤氏は、多様な質問・疑問・批判について、「私は著者ではありませんので・・・」と言いつつ、質問・疑問については可能な限り論文に即して回答し、批判についても、「私にもわかりませんが、おそらくはこういうことではないか、と思います」と対応し、議論の盛り上がりに積極的に貢献するという模範的役割を演じられた。
 前回の三輪の報告との対比を念頭に置くと、基本モデルの想定(たとえばsteady stateに沿って推移するとする想定)や、将来の予期しない事態の現実化を誰も予想しないとする想定の妥当性など、重大な疑問が次々と浮上するだろう。当然、これらの想定が成立しなければ、導かれる結論にも重大な影響が現れる。たとえば、「2017―2018年に深刻な事態が顕在化するとするシミュレーション結果は、少なからぬ人たちにとって予期しない事態ではなかろう。そうであれば、それ以前(たとえば、分析時点である現在)の金利上昇に結果しないのか?しないとすれば、その理由は・・・?この論文が話題になる場所では、そういう素直な疑問は提示されないのですか?」という疑問も浮上した。(ちなみに、この疑問に対する倉澤氏の回答は、「この論文は、そういううるさい人たちが参加するような場所ではあまり話題にならないのではないか・・・」というものであった。
 素直な読者には、モデルの設定、回帰分析の内容、シミュレーションの内容と解釈、さらにこの論文が各所で話題になった理由など、多方面にわたっていろいろ考える楽しみに満ちた論文である。
 この長大な論文の内容を咀嚼して紹介し、うるさい参加者の多面的な質問・疑問・批判に適宜対応しながら、「そんなことは著者に聞いてくれ・・・」などという台詞を口にすることなく、我慢強く議論の盛り上がりに貢献された倉澤氏に深謝します。倉澤氏の報告用メモは下からダウンロードできる。
 また、原論文はhttp://dss.ucsd.edu/~jhamilto/USMPF13_final.pdfからダウンロードできる。

*このページのトップに戻る

第16回
2013.10.28
(金)

 今回の会合(金融システム研究フォーラムと共催)では、三輪が「FTPL、Hyperinflation、“Abenomics”と『成長戦略』:政策決定過程と所得分配」と題して報告して討議した。来るべき「財政破綻」に伴って発生するhyperinflationに焦点を合わせた内容の報告である。
議論の前提となるFTPL(fiscal theory of the price level)が、学界標準として定着しつつあるとはいえ、日本では理解・受け入れが一向に進んでいないこと、今回の参加者の中に初めてFTPLに接するメンバーが複数含まれることなどを考慮して、FTPLの基本的な考え方と今回の検討課題との関連性についてわかりやすく解説することにかなりの時間を費やした。
 焦点を合わせるhyperinflationの帰結・影響として最大の注目に値するのが世代間や世代内階層間のreal wealth transferである。この点に焦点を合わせるべく検討のframeworkを設定して、各種政策メニューが各グループに与える影響の態様と程度について検討した。そのうえで、現実に選択されている「政策」がどのグループの利害により忠実かという観点から政策決定過程の検討に光を当てた。政治家・官僚・メディアおよびそこに登場する「識者」の行動 、検討の焦点であり進行しつつあるプロセスを象徴する日本国債への投資を決定する投資家(年金などの資産運用担当者)の行動にも焦点を合わせた。さらに、以上の検討結果を踏まえて、”Abenomics”や「成長戦略」についても検討の俎上に載せた。
 論点が多岐にわたりほとんどの読者になじみの薄い話題・検討課題である。関心のある読者は検討用資料などを見て内容について自ら吟味されたい。FTPLの解説にかなりの時間を費やしたこともあり2時間半を超える長い会合となった。混乱することなく、議論は盛り上がり、参加者は大いに楽しまれたようである。
 以下は、参加者のコメント・感想の一端である。
「これまでの三輪さんの話の中で最もわかりやすかった・・・。」終わった後の「どうでした?面白かった?」という私の問いに対する倉澤さんの笑顔での回答である。しばらく前のversionをごく少数のメンバーに送った際には「どうして全メンバーに送らないの・・・?もったいない」といわれた。その際の回答は、「わかってくれそうな人が多くないから」であった。今回のものは、当時のものより数段わかりやすくなっている。
 「うん。非常にわかりやすかったし、面白かった。こういう話はアメリカでは聞いたことがないけど、どうして・・・?」On leaveで夏から東大法学部に滞在中のJ. Mark Ramseyer Harvard Law School教授の反応である。「Harvardを含むBoston周辺はFTPLについては一貫して蚊帳の外だから・・・」というのが解説である。会合前の、「いつものように論文にして発表するのか?」という質問には、「そういう予定はない。作業が面倒だし、予想される結果もわずらわしいし・・・」と回答した。
同じく初めて接した金融機関のMBA氏は、終了後、「困りましたね・・・。個人的にどうやって対策を講じるか・・・。時間もあまりないし、手段といっても」と深刻な表情であった。
数日後、来年の日本経済に関する予測特集を組む予定だという経済誌の記者から、「先生が主催されている『財政破綻後の日本経済』の姿に関する研究会について一度お話を伺えませんか?」というメールを受け取った。「毎回議事録を掲載しています。あれ以上に具体的に何を聞きたいというのですか?」と返信した。「日本財政はどういう帰結をたどる可能性が高いか」「その結果、何が起きるのか(国債デフォルトあるいはハイパーインフレ?)」「財政破綻を防ぐにはどうすれば良いのか?」など6項目だという。「議事録を読んで聞きたいことを明確にしていただけませんか?マナーというものがあるでしょう」という返信に対する、数時間後の「大変失礼しました。申し訳ありませんでした」という回答で終了した。多くの「関係者」にとって、「想定外の」内容の議論・研究会であることを象徴するように見える。
 年金受給年齢に達した生活者としてはあまり現実化して欲しい内容のものではない。そういう「利害」を棚上げして、内容を真摯に受け止め、積極的に議論に参加したメンバー各位に深謝します。報告用スライドと資料は以下からダウンロードできる。

*このページのトップに戻る

第15回
2013.9.27
(金)

午後6時開始


 今回の会合(金融システム研究フォーラムと共催)では大阪大学経済学部の太田亘さんから「市場流動性とマクロ経済」と題する報告を受けて討議した。「マネーサプライを増やせば市場流動性が高まり、同時にマクロ経済も活性化し活況を呈するようになる」と確信する研究者はメンバーに含まれるとしても稀だろう。日本銀行によるマネーサプライの大幅拡大に対する国債の市場利回りの急上昇とその後の高水準での推移という市場の反応を念頭に置いて、その発生メカニズムとimplications、将来予測などについて話題にすることを意図して、かねてより表記のテーマで研究されている太田さんに、話題提供と意見交換をお願いした。
 「市場流動性」とは何か、「市場流動性とマクロ経済」の関係をどのように捉えればよいか、利用可能なデータをどのように活用するか・・・など少し考えるだけでも容易に予想がつく如く、単純明快な(占いのような)結論をめぐって議論が錯綜する・・・という類の研究会ではなかった。学会の最近の研究動向を踏まえて日本経済に関して研究したものであり、audienceの関心に応じて、可能な限り最近の情勢にも焦点を合わせたものであった。
 研究の今後の展開に向けた議論と意見交換が内容であり、要点をピックアップして「議事録」を作成するには必ずしも適さない。このように考え、太田さんに「議事録」の原案を作成していただいた。以下は、基本的にそれによる。
 一般に、証券市場には将来の経済状態に対する投資家の予想が織り込まれており、株価、長短金利差、クレジットスプレッド、流動性などが将来の経済状態を反映しているため、これら変数により経済成長率等のマクロ変数を予測できる、といわれることがある。ただし、これら変数と将来のマクロ変数との関係は必ずしも安定的ではない、ともいわれている。ここでは、日本において、株式市場の流動性とマクロ経済にどのような関係があると考えられるかについて議論した。
 まず大阪大学金融保険教育研究センター(CSFI)が公表しているCSFI-VXJGBが紹介された.CSFIは、従来から株式に関するボラティリティ指数(VXJ)を公表していたが、最近、国債先物のボラティリティ指数であるCSFI-VXJGBの公表を開始した。これは、市場参加者が近い将来、国債先物価格がどの程度変動すると予想しているかを、派生証券の売買データより推計したものである。この指数は、2013年第2四半期に上昇したが、第3四半期には低下している。
 一方、流動性について、その指標には様々なものがあるとともに、データの制約により長期間にわたって用いることのできる指標は限られているが、ここでは、30年以上の長期にわたる関係をみるため、Corwin and Schultz (2012)の提唱した高値と安値を用いたHigh-Low Spread Estimatorの推計結果が報告された。その時系列変化をみると、株式市場の流動性は、2013年第2四半期に悪化し、第3四半期に改善している.この流動性指標と実質GDP成長率との関係を1977年以降についてみると、流動性の低下が翌四半期の実質GDP成長率の低下につながっているといえなくもない。ただし、この関係は強いものではなく、特に、外れ値を考慮するとそういえないのではないか、という意見が出された。
 根本的な問題として、流動性がマクロ経済と関連するメカニズムが明らかになっていないため、今後、より詳細な研究が必要とされよう。また、GDP等の四半期データではなく、IIPなど月次データを用いた方がよいのではないか、という意見も出た。財政破綻との関連については、流動性と実質GDPが関連しているとしても実質GDPの増加による税収増は焼け石に水である、インフレになったとしても実質の経済活動に影響を与えない、などの可能性が考えられる。
 地味で困難な課題に挑戦中の研究内容を、多様かつdemandingでうるさいメンバーに提示して討議するという役割を我慢強く笑顔で果たしていただいた太田さんに深謝します。今後の研究のさらなる展開を期待しましょう。太田さんの報告用資料は以下からダウンロードできる。

*このページのトップに戻る

第14回
2013.9.27
(金)
午後2時開始

 9月27日には午後と夜の2回の会合を開催した。午後の第14回会合では東京大学医学部の橋本英樹さんから「財政破綻は医療を破綻させるか? 話題提供のためのメモ」と題して、「財政破綻と医療問題」に関する本格的検討の開始に向けた問題提起をいただき討議した。現状および進行しつつある「医療問題」の展開、財政破綻の影響との関連に関する基本的な問題提起、以上を受けて展開した多様な論点をめぐる意見交換が内容である。
 かなりの長い期間にわたって「医療施設の経営破綻」「医療サービス供給不足」「供給システムの混乱・麻痺」が「医療問題」「医療崩壊」などとしてメディアの大きな話題となってきた。それだけでも大変なのに、政府の「財政破綻」による税金からの医療費補填が困難になるという要因が追加されると、いったいどのような事態が現実化するか?このように考えて、「財政破綻後の日本経済の姿」について考える際の具体的な検討の焦点の1つとして「医療」「医療問題」を取り上げることとした。もちろん、長年にわたって話題となりつづけた「医療問題」の実態と今後の推移に関わる論点と、「財政破綻」の影響に関わる論点を総合・統合・混同して、「大変だ・・・」と騒ぐことが目的ではない。
 長期間にわたって進行しつつある「医療問題」(「医療崩壊」?)の実態及び今後の進展について、医療機関関係者(とりわけ民間の医療機関関係者)および医療政策関係者(機関)が一部で騒ぎ続けられるような状況を放置しこのまま「崩壊」に結果するとは素直には信じがたい。正確な実態が関係「識者」の間で把握され、提供される情報がこれに的確に基づいているのかという点が今後の検討の前提として決定的に重要である。今回の報告の最大の焦点はここにある。橋本氏によれば、「現在の医療供給・financingがどのようなメカニズムで動いているのかについて、十分な情報を経済学者も(さらに多くの)医療系専門家も有していないために生じる『議論の空中戦』」こそが問題である。報告用メモ(加筆後、議事録末尾からダウンロードできる)冒頭の次の記述は簡明である。
 本メモの第1の目的は、財政破綻が仮に生じた場合の医療サービス・医療制度への影響を検討するベースとして、日本における現行の医療サービスのfinancingや供給体制の特徴をまず共有することにある。先に結論を言うなら、日本の医療施設はfinancingについては厳しい価格統制下で医業収入の大半を公的財源に頼る一方、無視できない収入源として、差額ベッドや時間外診療費などの保険外併用療養費や、おむつ・衣服貸与・証明書発行など保険外負担など、裁量が許されている収入源も有する。しかし、後者についてはその実態は十分把握されていない。供給については、民間機関に大きく依存しており、供給サービスの内容・体制については、医療法による一定の制約はあるものの、いわゆる「自由開業制」のもとで、欧米などに比べればはるかに大きな裁量が与えられている。これら民間機関は、シャットダウンに陥ることを避けるべく戦略的行動を取ることができる。一方、市区町村立などの小型の公的医療機関については、合理的経営判断以外の要素(集票のための「公約」や地域での政治的利害対立などにより見通しのない存続を求められるなど)に左右されており、その破たんが仮に生じたとしても、それは必ずしも財政破たんそのものが原因とは言い切れない(明らかに加速要因ではあるが)。
 政府「財政破綻」の影響については、その実現形態・プロセスとその前後における政府の政策・選択の具体的内容に大きく左右される。このため、これらの点に関する多面的な検討が必要であり、誰にとっても容易な作業ではないし、「結論」を出せばよいということもない。元官僚諸氏や関係官庁に近い「医療問題」や「財政問題」の「専門家」に水を向けても、「財政破綻」の可能性について「あり得ない」「考えたこともない」とする回答がほとんどである。さらに、「政府財政が破綻するような事態が生じるとしても医療は最優先事項だから・・・」というイメージが暗黙の前提として議論の展開の妨げとなる。この点に関する橋本報告の冒頭の記述は次の通りである。
 本メモの第2の目的は、現状を共有化したうえで、財政破たんによって起こりうるシナリオについて、医療提供者(主に医師)、医療提供施設、家計、保険者(会社・自治体)について、税補填(主に国民健康保険と高齢者医療)の停止、インフレによる価格上昇の影響について、ざっくりと考察する。特に、国民健康保険の崩壊を想定し、その影響については、戦後直後の歴史に学ぶことも一部含めることとしたい。
 この点に関して、会合では、前回の福井報告の第1次大戦後のドイツのインフレの経験を念頭に置き、「類似のパターンのインフレが日本で生じたら・・・」という想定に基づいて議論が展開した。橋本さんには、当日の議論を踏まえて、適宜加筆していただくことをお願いした。
 かなり漠然とした内容のdemandingな注文に快く応じて大胆な内容の話題を提供し、十分な情報を有しない経済学者の多面的(かつとりとめない)質問・議論にも忍耐強く対応していただいた橋本さんに深謝します。十分だとはいえないとしても、前回のソ連崩壊後のロシアの経験に関する検討とともに、これで本格的検討の基礎が一応は整ったのではないか、と考えている。もっとも、前途遼遠である。
 橋本さんの報告用メモ(加筆後)は以下からダウンロードできる。

*このページのトップに戻る

第13回
2013.9.6
(金)

 今回の会合では、青山学院大学の福井義高氏から「ハイパーインフレーションの原因と結果:第一次世界大戦後のドイツの経験から」と題する報告を受けて討議した。第1次世界大戦でのドイツの敗北からナチス政権誕生に至るおなじみの見方に慣れ親しんできた大方の参加者にとって、意外性・驚き・ショックに満ち、「財政破綻後の日本経済の姿」について考えるうえでも大いに参考になる、興味深い会合であった。
 「財政破綻」とともに現実化し進行する「インフレ」は、上昇率が年率2%や20%などという「穏やか」なものではないし、結果として到達する物価水準も10倍や100倍などというレベルにとどまらないかもしれない。「財政破綻後の姿」について検討するためにも、「破綻後」に至るプロセスやその着地時点の状況の具体的イメージの参考例を知る術はないか。このように考えて、第1次世界大戦後のドイツのhyperinflationの経験に焦点を合わせることとした。
 基本的素材として選択したのは、Brescianin-Turroni, Constantino, The Economics of Inflation: A Study of Currency Depreciation in Post-War Germany, 1914-1923である。1931年にイタリア語版が刊行され、1937年に英語版が刊行された(with foreword by Lionel Robbins)500頁を超える大作である。賠償委員会メンバーなどとしてこの時期のBerlinに滞在したBocconi大学(Milano)の著名教授による、豊富な統計資料を駆使した第一級の研究書である。最近の文献なども参照しながらの周到な報告であった。報告用のスライドとともに、大部の報告用資料をダウンロードできるから、「 そんな馬鹿な・・・」と違和感を覚える読者も、大いに楽しめるはずである。
ドイツのインフレ、あの有名なhyperinflationが現実化したのは1923年秋の8月から11月の短期間であり、ドイツ皇帝が退位した1918年11月やVersailles条約調印の1919年6月から4年以上経過後のことである点に何よりも驚いた。敗戦後の混乱した状況下ですぐに現実化したのではない。敗戦後もかなりの率のインフレが進行し、1922年の高率のインフレの後に半年間以上の安定期を経て、1923年8月から11月までの短期間に物価水準が107倍(つまり10,000,000、1千万倍)になるというhyperinflationが現実化した。これに比べれば、先行する時期のインフレ(あるいは第2次世界大戦後の日本のインフレ)もかすんでしまうだろう。
 第2次世界大戦後の日本なら「戦争終了後の破壊と混乱の中からのスタート」であり、その過程で発生したインフレというイメージとなる。ところが、第1次世界大戦はドイツ国外で戦われたのであり、第2次世界大戦時のような爆撃による破壊などもなかった。当時、アメリカと並ぶ最先進工業国であったドイツには、最新鋭の生産設備・能力が無傷のまま残された。このため、原材料の入手が可能であれば、輸出を含めた販売拡大に供給面の制約は厳しくなかった。もちろん、膨大な戦時債務が残り、戦時賠償が課された。さらに、帝国が崩壊して新政府が誕生し、極端な税収減に対応する必要があったから、状況は容易でなかった。しかし、戦後の日本やソ連崩壊後のロシアなどとは、国内生産設備・能力などの点で基本的条件が異なった。
 税収不足を通貨の増発で賄うというおなじみの「政策」もあってかなりの大インフレとなった。しかし、1923年秋以前にも、生産の拡大は順調であり、インフレ政策下での安定的生産拡大とでも評すべき経済状況が続いた(1980年代後半の日本経済と類似する側面があるかもしれない)。通貨増発を抑制すべきだとの意見は、「そんなことをして景気が停滞し後退してもよいのか」という声に抑え込まれた(これも最新時点のどこかの国に似ているかもしれない)。そこで爆発したのが1923年8月以降のhyperinflationである。短期間で物価水準が107倍になるような経済で何が現実化するかは、札束を乳母車に乗せて途方に暮れる老婆の映像などを象徴として、いろいろイメージできるだろう。
Hyperinflationの時期の首相でありその後も外相として活躍したGustav Stresemannがhyperinflationに終止符を打つための大胆な政策の実施からその後のStabilizationを実現する時期の政治的リーダーである。参考資料7に見る如く物価上昇はピタリと止まり(下落したのではない)、参考資料36に見る如く1人当たりのGDPの落ち込みは短期間かつ小幅であった。いかにしてStabilizationを短期間で実現したか、このtransitionの時期の経済状態はどのようなものか(どうやら大きく混乱したのではない)などの点の検討も、今後の日本に参考になるかもしれない。
 戦後日本の「破壊と混乱からの回復」過程の記憶に大きく左右されることになりそうなこの国の政策論議のためには、第1次大戦後のドイツの経験は解毒剤としても大いに参考になるだろう。この時期のドイツでは、戦時利得税は導入されず、預金封鎖も実施されなかった。
 「財政破綻後の・・・・」に関心のない読者にとっても、今回の内容は興味深いだろう。関連文献も含めて、膨大な資料を整理し、要点を要領よく報告し、尽きることのない参加者の質問・意見に的確に対応していただいた福井さんに深謝します。Bresciani-Turroniの研究書に対応する研究書を第2次世界大戦後の日本に関して誰か書かないかな・・・と素直に思います。見果てぬ夢だなどとは言いたくない。
 報告用スライドと参考資料は下記からダウンロードできます。

*このページのトップに戻る

第12回
2013.6.29
(土)

 今回の会合では、明治学院大学経済学部の斉藤都美氏から「ソ連・ロシアの医療・健康問題と日本へのインプリケーション」と題する報告を受けて討議した。
 日本政府の財政破綻の影響は、政府およびその周辺に限られず、日本国内(さらに世界中)の国民生活に及ぶだろう。しかし、その影響の具体的内容と深刻さ、影響の及ぶ時間の長さなどが話題となることは稀である。「そんなことは考えたことも、想像したこともない」とする圧倒的多数派とは別に、「そんなありそうにない・・・」「誰かが何とかしてくれる・・・」「できれば知りたくない・・・」「心配しても始まらない・・・」などという多様な理由に基づくだろう。「破綻後の日本経済の姿」について考える研究会をスタートして1年が経過した。
 今回のテーマは、破綻後に起こる事態のうち最も関心が高い分野・側面の1つである「医療問題」に焦点を合わせる検討プロジェクトの一環である。また、高齢化の進展とともに膨張する医療費にどのように対応するかという先進各国共通の「財政問題」の中核にも関わるから、「財政破綻」が顕在化しなくても、おそらくは直面することとなる国民的課題に関連する。
 財政破綻後に医療・健康に関連していかなる事態が顕在化し国民生活に影響するか・・・という設問について検討することは容易でない。「いかなる事態」の具体的内容を明確化し、どの側面への「影響」に焦点を合わせるか、という検討課題の設定すら容易でない。それぞれの検討課題についてscenarioを考える際の選択肢がこれまた多様である。このためもあって、「重要だと思うし関心もあるが・・・」と具体的な一歩がなかなか踏み出せない。
 「それなら、実質的な財政破綻で長期間にわたる大変な事態を経験したソ連・ロシアの経験を参考にできないか・・・」と考えて文献を探索した。2001年に刊行された書物に収録されたChristopher Davisの論文を中心にした諸文献の内容を整理して、現在および将来の日本へのインプリケーションを念頭に置いた報告を斉藤氏にお願いし、これを素材にした意見交換を通じて今後の日本の医療・健康問題について考えるための基礎とすることとした。
 「政治」に関わるものを除けば、新聞・TV等を通じてわれわれが知ることができている1990年代以降のロシアに関する情報は驚くほど乏しい。日本語で読める書物について大きくは違わない。とはいえ、斉藤氏の努力に加えて出席者の多様な知識を照らし合わせながら、成果の多い会合であった。
 ソ連が崩壊してRussiaになったが、当初はほとんど税収がなく、貨幣経済が未発達であった。配給から市場へと大転換を余儀なくされた流通システムが大混乱・・・などという一般的な状況下でのスタートであった。崩壊に至るプロセスにあった1980年代のソ連の医療システムが置かれた状況も深刻であった。医療サービスは無料で提供されていたが、医療費支出の対GDP比率は3%程度であった。ここに、混乱期の賃金の遅配や関連物資不足が重なった。1990年代を通じて、大インフレ下で、実質GDPの大幅低下が継続した。
 「このようなロシアで何が起こったか、現実化したか・・・」という視点からの報告だから、明日の日本の姿を考える際の参考資料として興味深いと考える読者も多いだろう。読み方も読者により多様だろう。
 Davisは、「ロシアの医療体制の特徴・問題点は、ソ連時代から継続し、投入から産出まで、ソ連時代と驚くほど似ている」「各種医療・健康関連の指標に大幅な改善は見られず、むしろ悪化している指標も多い」などとする。
 国際的に大きな話題になったとりわけ中年男性を中心とした平均余命の急激な悪化につては、失業によるストレスやアルコールの過剰摂取の影響が顕著であり、医療システムの混乱・崩壊が決定的に重要な影響ではないようである。予防医療や公衆衛生面の対応がとりわけ重要なようである。
 破綻しあるいは破綻が迫る・・・という緊迫した事態下で急いで議論し、あるいは冷静な議論をすることなく対応を迫られることの帰結は、あまり望ましいものではないだろう。そのような事態の顕在化までの時間は限られるかもしれない。ソ連の経験などに照らした冷静な検討の開始が有用だろう。
「財政破綻後の日本家財の姿」との関連で医療・健康に関わる検討を今後も進める予定である。話題の提供、議論への参加など各側面で読者の協力を期待する。
 困難な課題に挑戦し、多くの文献を踏まえた興味深い話題・報告をしていただいた斉藤氏に深謝します。参考資料等は下記からダウンロードできます。

*このページのトップに戻る

第11回
2013.4.12
(金)

 今回の会合では、「FTPLから見た“Abenomics”と『財政破綻後の日本経済の姿』」と題して三輪が報告あるいは話題を提供して討議した。前回会合の話題であったFTPL(Fiscal Theory of the Price Level)の応用編とでも位置づけられる内容である。前回同様、今回の会合も「金融システム研究フォーラム」との共催であった。
趣旨については、会合前に配布した三輪の次の案内文が分かりやすい。

 数か月間続いた騒々しい状況の途中から“Abenomics”とか「三本の矢」とかいう表現が頻繁に登場するようになり、円安・株高との関連性、さらに今後の景気や物価・地価の動向から経済成長や日本経済の将来への「政策」効果が大きな話題となりました。「Abenomicsって何?」などといまさら聞きにくく、これに疑問を提示し批判したりすれば面倒なことになりかねない雰囲気になりました。
「財政破綻後の日本経済の姿」について研究するためには、新たに生まれたこの状況の実質的意味と影響について議論し見定めることが必須でしょう。そう考えて、3月半ばに検討の素材とすべく簡単なメモを作成しました。今回の会合では、このメモを素材にして「財政破綻後の日本経済の姿」との関連性を念頭に置いて“Abenomics”について多面的に議論したいと思います。何のことだかわからず、あるいは、話題にしにくく、話し相手も見つからず・・・などの理由でフラストレーションが蓄積した方々にもお楽しみいただけると思います。実態不明あるいは実質未定のようですから、政策効果の評価、批判のいずれでもありません。
FTPL (Fiscal Theory of the Price Level)が基盤となる見方です。この見方に不案内の方は、前回会合の福井さんの報告用スライドや参考資料(さらに第1回会合の参考資料)などを参照して、一応の準備をお願いします。「FTPLから見た・・・」であり、FTPLの応用が中心となります。サッカーの試合に参加し観戦して楽しむためにも、準備が必要です。

  「財政破綻後の日本経済の姿」に関する研究会の研究・議論の内容とスケジュールに与える影響に焦点を合わせた論点整理である。(少なくとも国際的な学会レベルでは)標準的な見方として定着しつつあるFTPLに基づく見方であり、研究成果の報告などとして独自性を主張すべきものではない。
「さしたる実質的効果もなく、政府に失望した投資家が、国債を手放し始めると、インフレが激化し、財政破綻・・・が顕在化する」ことになり、「そういう状況下で、団塊の世代の老後の生活(設計)への影響は・・・?」などという検討課題の重要性・緊急性が低下することはない、という「基本的結論?」に関する異論は少なくとも表面化しなかった。
そうであれば、「数か月後には、『宴の後』?」として、いつごろ、何が顕在化するか・・・などというsheet 14の話題でも大きく盛り上がった。Cochraneに従って、この内容はwarningであってpredictionではない・・・として始めたこともあって、活発な議論が3時間に及んだ。最後に登場した「もう少し明るい話題はないものですかね・・・」という若手研究者の笑顔での発言が象徴である。
3人の代表者(いずれも長老)が一致してとっくに破綻していてもおかしくないと考え、「なぜ破綻しないのか・・・」と悩む。そのように考えない投資家が沢山いるから・・・という誤りではないがinformativeではない回答を前提にすると、「だから今回の盛り上がりも不思議ではない」ことになりそうである。しかし、原因が同根であれば、「あれ、こんなはずではなかった」と少なからぬ投資家・国民が考え始めた時点で、国債価格にも大きな影響が現れるかもしれない。もちろん、あくまでscenarioである。
現時点での日本の状況に照らせば、怪文書とでも見られかねない文書に沿った内容の会合に出席し、議論に積極的に参加したメンバー各位に深謝します。

 報告は事前に配布した文書に沿って行い、同時に簡単なslidesを用意した、いずれも下記からダウンロードできる。

*このページのトップに戻る

第10回
2013.2.8
(金)

 今回の会合では、青山学院大学の福井氏から「FTPL(Fiscal Theory of the Price Level)の視点から見た国債発行とインフレ・ターゲット」と題する報告を受けて討議した。今回は「金融システム研究フォーラム」との共催とした。「金融システム研究フォーラム」では3年前にCochraneのDPを素材にしてFTPLを話題にしたから、関心のある読者はそちらをも参照していただきたい(第20回会合)。
「インフレ・ターゲットがなぜあれほど大きな話題になるのですか?」などと聞かれる機会が多い。「インフレ・ターゲットって何のことだと思いますか?2%に設定するとして、何が始まるのですか?」と問い返すと「・・・、そうなんです。だから、わからない」「私もわかりませんね。なぜ導入しないんだと強硬は人たちの言うことを聞いてもわからない」と続く。「要するに、もっと金融緩和をしろということじゃないですか?」「何をどれくらい『緩和』しろというのですか?『緩和』すると何が起こるというのですか?」「TVで『緩和は効果に乏しいのでは』という質問に対して自民党の幹部が、効果が出るまでやればよいのですと回答していました。医師出身だそうですが・・・。」
 最近の「アベノミクス」についても似たような会話が飛び交っている。「アベノミクスについてどうお考えですか?」と聞かれて、「アベノミクスって何のことだと思いますか?」と笑顔で問い返すと、「そういう冷ややかな態度をとる経済学者が多くて・・・・」と怒りそうな人が多い。「実態・実質が定かではないから、評価のしようがありません」などというと、「日銀の回し者め。こんなデフレを放置してよいとでもいうのか」と言われかねない。「金融を『緩和』すると景気がよくなるとでもいうのですかね?」とか「金融『緩和』で円安・株高が実現するとでもいうのですか?」などと言えば、「もう大変です・・・。」「金融の量的超緩和期が継続した時期や、1990年代のロシア・東欧でそういうことがあったとでもいうのですかね?」とか「プラザ合意の実質は強力な金融引き締め実施だとでもいうのですかね?あれ以降の長期的に大幅な円高が進行したから・・・」などという問いかけは、相手を選ばないと大変なことになる。
 今回の話題であるFTPLは少なくとも30年前には提示され、以後徐々に理解と支持が広がった。1990年代以降最も熱心に主張してきたJohn Cochraneが2年前の全米ファイナンス学会年次総会の会長講演で言及し、今年1月の全米経済学会年次総会の“Paper Money”と題する会長講演でChristopher Simsが“It should be the standard approach to modeling monetary policy, not treated as an esoteric or arcane special case”と結論づけた。Money supplyに焦点を合わせる伝統的な接近法では、Lehman shock後のアメリカ経済の観察事実を含めた多くのマクロ金融関連現象を説明できず、これを可能にするFTPLこそがthe standard approachになるべきだとし、なるだろうと述べたのである。この見方に従えば、上記の如き問答も不思議でも異様でもなくなる・・・・かもしれない。
 Simsの講演を受けてというわけではない。この研究会発足時以降、一度は話題にしようかと思い、そろそろと考えていた矢先に、福井さんからお申し出があり、福井さんもメンバーである「金融システム研究フォーラム」との共催でこの会合を開いた。Simsの講演に出席したメンバーの「500人はいた参加者のうち、理解できた人はどれくらいいたのですかね・・・」という感想があるくらいである。だからこそ、Simsの講演もいきなりFTPLに入るのではなく、伝統的接近法では最近のアメリカの現象やEuroとECBに関わる現象のいずれもがうまく説明できないことを解説することから始めて関心・食欲を刺激した後に基本的な考え方の提示に進んだ。
 インフレ・ターゲット論議から入る福井さんの報告も同様のサービス精神に基づく。「何を聞いても言ってもよい」ことを基本原則とする会合であるから参加メンバー間の発言・議論の内容・展開もなかなかに大変であり、「FTPL理解のカギ:Gov’t Valuation方程式」になかなかたどり着けなかった。いくら議事録で工夫しても、少なからぬ読者が「なるほど・・・」とすんなり理解し、さらに受け入れるようにはならないだろう。「まあ、お楽しみください」とでもいうよりしようがない。
 とはいえ、「物価水準を決めるのは中央銀行?」「FTPL:財政政策が決める物価水準」「中央銀行にできること」「国債は負債ではなく『株』」「インフレを起こすには」「無能というよりは無力な中央銀行」「白川総裁は全てわかっている!」「日本の現状」「アベノミクスの本当の意図?」「政府の意思と能力」などと続く福井さんの報告用資料を覗いてみようと考える読者も少なくないだろう。
 「財政破綻後の・・・」研究会という名称について、「国内債の破綻を宣言した国なんてほとんどない。ほとんどが国内債である日本が破綻することなんてありえない。この人たちは何とを頓珍漢なことを言っているのか」という類のコメントを耳にする。発足時に明言しているように、国債価格の暴落に注目しているのであって、国債のdefault宣言を想定しているのではない。国際機関から援助の前提として要請されるのではなければ、default宣言ではなくインフレによる債務の実質価値の減少を政府は選択するというのが各国の歴史が示すところである。残念ながら、そのタイミングと幅・スピードをうまくコントロールできた政府が存在したようには見えない。

 Timelyではあるが伝統的接近方法との距離等から多くの参加者の食欲を喚起しながらわかりやすく提示するという困難な課題に挑戦し、実り多い議論を生み出していただいた福井さんに深謝します。(文責:三輪芳朗)
*このページのトップに戻る

第9回
2013.1.25
(金)

 「開店休業」を宣言して以来初めてとなる今回の会合では、貝塚氏から「曲がり角にきた日本の社会保障」と題する報告を受け、討議した。近日中にどこかでお話しになる話題のようであった。出席者が少なかったこともあり、提示された話題と関連資料をめぐって議論は錯綜し、内容も自由かつ大胆に飛翔した。
 「財政破綻後・・・」と「曲がり角・・・」では違いすぎる・・・と考える向きもあるかもしれない。「破綻後」に直面する深刻な混乱状況下で現実化する事態に備えるとすれば、何に重点を置くべきか、最低限どのようなことを念頭に置くべきか、いかなる制度・条件を事前に整備しておく必要があるかなどと考えれば、これまでの場当たりのツギハギのような制度および制度論議を大胆かつ冷静に見直しておかなければ、と考えて違和感はないだろう。
 実際、年金名簿に関して、「どうしてこうなっちゃうんでしょうかね?」「こんな結果になることは予想できなかったのですかね?」「名簿不備の大量発生だって、大騒動になる遥か前に気づいた関係者が少なくなかったでしょう。何をしていたんでしょうね?他省庁や政治家の中にだって、こういう結果に早くから気づいた人は少なくなかったでしょう。メディアを含めてあの時騒いだ人たちの中にだって・・・?」という点も話題になった。社会保障制度についても、「見直し論議の連続ですが、制度創設時とまでは言わないとしても、5年前には予想・予定されているんですかね?」「諸官庁の実質的責任者や関係審議会等のメンバーなどは、結果である現状を見て、何を考えているんでしょうかね?」「どうしたら、次の見直し・改革などが不要な状況を生み出すことができるのですかね」なども話題となった。
 三輪も、「われわれの年金は大丈夫ですかね・・・」と水を向けた同僚から、「百年持続する制度にしましたから」と大真面目な顔で宣言され、健保組合解散の記事が相次いだ時期に「医療保険制度は大丈夫ですかね」と聞いて、「何か問題があるとでもおっしゃるのですか」と怖い顔で叱られたことを思い出す。数年前のことである。
 その立場に1年あるいは2年しか在任しない「責任者」が制度設計の基本と細部に関わる事項・内容を実質的に決定し、そういう責任者が選任するメンバーにより構成される審議会等で検討する。結果が出る頃には誰もその場にいない。居るのは交代した「責任者」と彼らにも選任され続ける審議会メンバー等だけである(メディアの代表のような人たちがここに含まれるのが通常である)。こういう状況が延々と続いてきた。これではこういう結果になっても少しも驚かないと多くの読者は考えるだろう。霞が関・永田町の住民たちも、例外ではなく、こんなことは十分すぎるほど理解しているはずだ。当然、こういうことを口にする人間はそういう審議会等には参加しない。
「しかし、それを言っちゃあ・・・」と考える読者も多いだろう。「納税者番号制度程度のものは整備しておかなくっちゃ」と考える向きも少なくない。しかし、こういうことも話題として登場して久しく、実現の見通しはなかなかのようだ。
 こういう状況下で、何とか委員会が基本計画に関する結論を夏までに出すそうである。いかなる実質的制約条件下で設置され、いかなる基準・考え方に基づいてメンバーが選定され、何を目的・目標にして検討するのか定かではないが、「やれやれご苦労なことだ・・・」と思いつつも、今回は「数年後に見直し論議をする余裕もないかもしれない」と考えてしまう。
昔なら、貝塚氏も三輪も、「こういうことを繰り返しているうちにわれわれの世代は・・・・て、将来の世代からいろいろ言われることになる・・・、残念ながら」と苦笑することになっただろう。

 社会保障制度に関わる多様な話題・内容に関して自由・気ままなとでも表現すべき内容の会合の実現を可能にしていただいた貝塚氏に深謝します。会合に提示された資料は以下からダウンロードできる。(文責:三輪芳朗)
*このページのトップに戻る

第8回
2012.12.10
(月)

 今回の会合では、東京大学の林正義氏から、「夕張」と「生活保護と財政移転制度」の2つの報告を受けて討議した。
 林氏の報告に先立って、本研究会の今後の運営および研究会合の開催予定・計画について話し合い、以下の点について合意し、結論を公表することとした。今回の如き会合については、次の意味で「開店休業」とする。つまり、メンバーの準備および研究環境の整備を主たる目的として事務局が中心となって調整し開催してきた研究会合の役割は一段落したと判断し、これまでのような会合については「開店休業」とする。今後は必要に応じて開催する。「財政破綻後の日本経済の姿」に関して進行中の各メンバーの研究との関連で、研究成果の報告あるいは関連する話題の提供の申し出があった際に随時活用できる装置としては存続させ、会合を適宜開催して討議・意見交換を行う。(当然、会合を開催しないということではない。1月初旬現在で、すでにいくつかの話題が予定リストに上がっている。)
 「財政破綻後の日本経済の姿」について具体的側面・論点に関する各論的検討は、問題設定・論点整理・情報収集から始まる多くの難題・困難が予想され、容易な作業ではないと当初から考えていた。存続をとりあえず2012年12末までとし、その後のことはその時点で考えるとして研究会をスタートしたのもこの点を念頭に置いてのことであった。その意味で、「想定内の事態」・予定通りの決定である。
 「『財政破綻』の現実化プロセス・実態はどのようなものか?」「『財政破綻』後にいかなる状況に直面することになるか?」「『財政破』後の混乱あるいは『調整』プロセスはどのようなものとなるか?」などが各検討課題の出発点の一環となるだろう。出発点というのは、このような破綻後の政府に直接関わる論点の具体的内容・検討結果が国民・住民の生活・経済活動への影響について具体的に検討する際の前提情報となるという意味である。このような一連の設問について考える際の参考にと2006年に「財政破綻」が顕在化した夕張のケースについて林氏から報告を受けて討議した。関心の中心は、「いかなる事態が現実化し、何が現在も進行中か?」であり、たとえば、中央・地方の各政府の関連施策の当否や有効性ではない。詳しくは林氏の報告用メモを参照されたい。
夕張市は1954年度の赤字団体を財政再建するための臨時特別措置法の最後の適用団体であり、297団体目であった。夕張市財政再生計画は平成21年度〜平成41年度までの21年間に及ぶものであり、解消すべき赤字額322億円は夕張の標準財政規模45億円の7倍強であった。増税や使用料・手数料の引き上げによる分は限られ、歳出カットが中心となる。その具体的内容についてはメモを参照していただきたい。
 ルールに基づいて実施された政府の施策をはじめとする各方面からの実質的な応援・支援体制の機能・役割が期待できた状況下での夕張の「財政再生」と、同様・類似のものを「財政破綻後の日本経済の姿」についても想定できるかという点も論点の一つだろう。また、「各方面の歳出をここまで大幅にカットせざるを得なかったのか」という感慨とともに、「ここまでカットした再生計画が実施できているのか」と素直に驚き、「財政破綻」前後の日本経済における歳出削減の幅と方向の双方で選択の幅は通常考えられているよりもかなり大きいかもしれないとの印象を持った参加者が多かったようである。
 大幅な歳出削減や「財政破綻後の日本経済の姿」について具体的に検討する際に、中央政府と地方政府の協業・分業体制と相互連関の的確・正確な理解が不可欠となる。この点についても、一般論はあまり有用ではなく、網羅的な論点整理は多様・複雑すぎて手に余るだろう。このように考えて、「生活保護と財政移転制度」の解説を林氏にお願いした。報告を受けて討議し、その後何度も報告用メモを読み返しても、依然として、「なるほどそういうものか・・・」と思いつつも、「必要に応じてその都度参照の必要がある」といわざるを得ないようだ。
 たとえば、「中央政府の生活保護関連支出を半減する」と決定したとしても、「どの支出項目をどのような組み合わせでどの程度削減する必要があるか?」「結果として、地方政府の負担分も含めた生活保護関連支出はどれほど減少するか?」、さらに、「それによる他の政策関連支出(たとえば、医療費や年金など)への影響はどの程度か?」などの設問への回答を導くのは容易ではない。
「生活保護として現実にどれ程の金額が支給されるのですか?」という質問に対する回答が大きな話題となった。メモの真ん中あたりに具体的な数字が記載されている。東京都23区や大阪市の1級地―1の4人世帯(40歳、35歳、7歳、5歳)で291,830円(月額、無税)である。さらに医療サービスの費用や介護サービスの費用は無料(本人負担なし)である。「これを上回る実質所得がある住民の比率はどれくらいですか?」という質問への回答は、「当然、半分以下でしょう」というものであった。
最後の部分には、「生活保護国庫負担が廃止されると地方の生活保護実施はどうなるのか?」という設問を想定した林氏の検討結果を示していただいた。
 「夕張」に関する興味深い報告および生活保護に焦点を合わせた政府間関係に関する「初心者教育」を丁寧に実施し、乱れ飛ぶ多様あるいは散漫な質問等に我慢強く回答していただいた林さんに深謝します。
 これにて「開店休業」です。 
 2つの報告用メモは下記からダウンロードできます。(文責:三輪芳朗)

後者の途中(sheet 57)に登場する林(2011a)とHayashi(2011b)については下記を参照してください。いずれも生活保護に関する基本的な情報です。

http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/keizai_prism/backnumber/h22pdf/20107801.pdf  と
http://www.cirje.e.u-tokyo.ac.jp/research/dp/2011/2011cj236.pdf

*このページのトップに戻る

第7回
2012.10.19
(金)

 今回の会合では、前半に財務省の上田淳二さんから「政府支出の規模について」と題する報告を受けて討議し、後半には今後の研究会の運営方針およびその具体的内容等について議論した。
「昨日のこと・・・。そんな昔のことは覚えちゃいねえ」というハードボイルド小説の主人公のセリフではないが、10年以上前(2001年6月)の「経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」(「骨太の方針」)が、「本格的な財政再建に取り組む際の中期目標として、まずは『プライマリーバランスを黒字にすること(過去の借金の元利払い以外の歳出は新たな借金に頼らないこと)』を目指すことが適切である」と宣言したことを覚えている読者は稀だろう。翌年1月の構造改革と経済財政の中期展望について」で「2010年代初頭にはプライマリーバランスを黒字化することが望まれる」とした「改革と展望」の対象期間は2002年度〜2006年度の5か年であった。財政健全化第I期(2001〜2006年度の小泉内閣における改革)を受けて、「基本方針2006」は、第I期と同程度の財政健全化努力を継続するとした財政健全化第II期(2007年度〜2010年代初頭)に財政健全化の第一歩である基礎的財政収支黒字化を確実に実現することとし、2010年代初頭以降の財政健全化第III期につなぐことを目指すとした。「基本方針2006」の決定後まもなく小泉首相が退陣した。2010年代初頭である現時点の状況は基礎的財政収支黒字化とはほど遠い。
 歳出・歳入一体改革を目指す「基本方針2006年」の策定に先行して、各種の試算が示された。その一環としてかりに政策努力のすべてを歳出削減によって行った場合に、そのために必要な対策に関する試算結果が示された。経済財政諮問会議の要請を受けて財務大臣が財政制度等審議会に諮問した検討の結果が代表例である。
 上田さんには、このような経緯および政府の財政活動の大枠について解説したうえで、財政制度等審議会答申の内容について紹介していただき、討議した。「財政破綻後の日本経済の姿」に関して検討する際の、具体的イメージの参考にしようと考えた。あくまで機械的な計算結果(「仮定計算」)である。たとえば、ダウンロードできるようにした資料の29頁〜31頁に、多くの読者が深刻なショックを受けそうな結果が示されている。その後すでに5年以上の時間が経過し、状況はさらに大幅に悪化している。同様の検討を現時点で試みるという課題は読者に任せよう。現時点に至る10年程度の期間に関して、多様な観点から議論が盛り上がった。
 「財政再建・歳出削減の具体的手段としてどの程度のいかなる内容のものが必要か」という視点から検討すると「財務省の手先・回し者か・・・」というヤジが飛んでくるかもしれない。「財政破綻という事態によってそのような『手段』の採用が強制され余儀なくされた場合、日本経済にいかなる具体的影響があるか、国民生活の姿はいかなるものとなるか」という視点からscenariosを描いておこうというのが本研究会設置の趣旨である。少なからぬメンバーは、「財政再建・歳出削減の具体的手段」の実行が可能だとしても、「財政破綻という事態」の回避は容易でないし、・・・と考えている。
 具体的手段を採用した際の国民生活への影響を検討し、その際に予想される対応手段を想定して各種のscenariosを描く作業に着手しようと考えている。検討対象にする具体的手段およびその検討担当者(複数)の人選について話し合うのが今回会合の後半の課題である。たとえば、以下の如き検討課題である。(1)基礎年金の国庫負担を1/3から1/2に引き上げるのではなく0にしたらいかなる影響が現れるか、(2)地方交付税交付金を廃止したらいかなる影響が現れるか、(3)生活保護関係支出を半減したらどのような影響が現れるか、(4)国民総医療費を5兆円(さらに、10兆円)削減したらどのような影響が現れるか、(5)国債価格が1/2に下落し(並行して大インフレが発生し)実質年金額が大幅に下落し同時に年金基金資産が大幅目減りした際のとりわけ団塊世代への影響はいかなるものか。このような論点について検討したうえで、「財政破綻後の日本経済の姿」について総合的に考えようという構想である。当然のことながら、このような話し合いが順調に進んで、すぐに作業が全面的に展開される・・・というわけにはいかない。蓋を開けて、各メンバーが中身の素材を取り出して試食と検討(品定め)を始めたという段階である。
 この研究会の設置期間はとりあえず年末までとしている。その後の状況は、この段階の検討作業の進み具合及び内容に依存する。「来年のことをいうと鬼が笑う」そうです。「明日のこと、そんな先のことは知らないね・・・」とでもいうより他はなさそうです。もちろん、それまでに財政破綻・国債価格暴落が現実化しているかもしれません。
 「政府支出の規模について」過去10年程度の期間にわたる複雑な経過を要領よく紹介し、今後の議論の展開の基盤形成に貢献された上田さんに深謝します。
 上田さんの報告用メモは以下からダウンロードできます。(文責:三輪芳朗)


*このページのトップに戻る

第6回
2012.10.10
(水)

 今回は青山学院大学の福井義高さんから「鉄道は生き残れるか:ある公共事業の半世紀」と題する報告を受けて、討議した。本年8月に刊行され少なくとも一部では大きな話題になっている福井さんの『鉄道は生き残れるか:「鉄道復権」の幻想』(中央経済社)が、本研究会の検討に大いに参考になると判断して、趣旨に合わせた報告を依頼した。
 国鉄赤字転落(1964年度)から分割(1987年)まで22年であった。分割から今年で25年経過した。歳出削減・サービス内容の見直しなどが遅々として進まず、分割・民営化を契機としてようやく少し進んだ。しかし、その後の25年を回顧すると、政府の財政削減と同様(あるいはそれ以上に)、見直しは容易でないことがわかる。このことを呆れるほど実感させる内容である点に注目し、過去のプロセスと問題点の具体的内容、そのような事態が発生する理由とメカニズム、今後の課題の具体的事例などについて、「財政破綻後の日本経済の姿」を考えるうえで参考になることを念頭に置いて報告することを求めた。「ある公共事業の半世紀」という副題は、この要請に沿ったものである。
 たとえば、東海道新幹線を運営する独占企業であるJR東海は、必要があれば料金引上げによる収入増加が実現可能であり、激しいインフレ以外の実質増収策が残されていない状況に近い将来に陥る恐れが高い政府とは決定的に異なる。政府の歳出であれば、歳出に見合った便益が得られる(benefit>cost)ことを示すことが各歳出項目に強く求められるようになっている(これが有効に機能しているということではない)。しかし、料金値上げを求める事態にでもならなければ、JR各社が提供している個々のサービスあるいは全体について、同様のことが求められることはない。壮大な無駄と判定されかねない事業についても、その縮小・廃止を求められることはない。不満な利用者の多くも実態を知らないし、声を出す手段もなく、まして実現手段はない。このような状況下での「歳出見直し」がどのようなものとなるか・・・という興味深い社会的実験が壮大な規模で半世紀にわたって進行しているとして、その現場からのリポートを求めたことになる。
 とりわけ書物の後半部分は具体的かつショッキングな内容に富んでいる。青函トンネル、整備新関線、リニアモーター、鉄道貨物、四国の鉄道、三陸鉄道などの具体的話題が次々登場し多くの読者を圧倒ずるはずである。報告用メモでは書物および報告内容に比してあまりに淡白だからと、具体的話題のコラムを事後的に補充していただいた。
 「読んでほとんど違和感がない内容ですが、どうしてこういう話題が提供されてこなかったのでしょうね・・・」という一参加メンバーの感想に対して、様々な感想が表明された。「鉄道に関する話題に関心を持ち、意見を表明する人たちの圧倒的多数派が、マニアというかオタクというか、鉄道ファンなんですね」という意見と、「新聞・テレビ・雑誌の関係者も含め、鉄道好きが多いのですね・・・」という苦笑・ため息で議論は収束した。
 時代状況にマッチした書物を刊行し、それに基づく興味深い話題を提供していただいた福井さんに深謝します。
 福井さんの報告用メモは以下からダウンロードできます。(文責:三輪芳朗)


*このページのトップに戻る

第5回
2012.9.26
(水)

 今回は東京大学の井堀利宏さんから「なぜ歳出削減は容易でないか?」と題する報告を受けて討議した。井堀さんは、政府歳出の無駄に注目し、歳出配分の見直し、歳出削減の必要性に注目し、具体的内容とともに財政再建の必要性を早くから強く主張してきた代表的経済学者の一人である。今後、歳出削減の具体的内容と方法にも注目しながら、その帰結・影響に研究会の検討の重点を移すに際して、まずは総論・導入編としての話題提供を求めた。財政破綻後に事実上強制されるかその前に進めるかのいずれであるにせよ、歳出削減が今後の検討の焦点になる。「タイトルは三輪さんに言われたものです・・・」とのことであり、具体的内容・方法に内容の重点がある。「井堀さんの予想というか予測では、財政破綻はいつごろですか・・・?」と開始前に水を向けたところ、「5年後・・・と予想したのが5年以上前です・・・」が笑顔での回答であった。三輪を含めた少なからぬ参加メンバーの「予想」と大きくは違わないだろう。
 「なぜ歳出削減は容易でないか・・・?」という話題には、財政再建、とりわけ歳出削減の必要性・重要性を重視する者の多くにとっては、「何を今さら・・・」という感が強いだろう。冒頭のこの話題に関する討議は早々に終え、小泉政権末期の「骨太の方針2006」に結果した歳出改革に話題が移り、さらにそれが実現しなかったという現実に話題が及んだ。報告用メモの15頁以下の井堀さんたちの当時のシミュレーション結果と最近の試算結果に話題が移った。前者の、2005年から大胆な改革がスタートしたという状況下でのシミュレーション結果は、スタートせずにかなりの時間が経過したという現実と照らすと、少なからぬ読者により大きなショックを与えるはずである。ちなみに、第2回会合で報告していただいた上田さんによれば、「私の試算結果と概ね一致している」そうである。
その後、民主党政権時代の政策の評価に進み、最後に、どの分野でどれだけ減らせるか、減らすと何が起きるか・・・という話題に議論が移行して、今後の検討につながることになった。具体的例示内容については報告用ファイルをご覧いただきたい。まずは、「どの分野でどの程度の削減が可能か」という視点からの検討が進み、その後に、より具体的に「xxをさらに大幅に削減しあるいは廃止したら何が起こるか」という方向にさらに話題が展開した。たとえば、「基礎年金の国庫負担の1/3から1/2への引き上げではなく、これを廃止、つまり0にしたらどうなるか?」が話題になったが、一応の意見交換をしたうえで今後の検討課題とした。関連して、「制度に関する情報が必ずしも正確に提供されず的確に理解されていない・・・」との指摘があり、求めに応じて後日参考情報が田中さんからメンバーに提供された(文献のリストについて下記のとおりである)。
 「補助金の無駄:歳出削減は政治的に困難」「無駄な歳出でも、削減は困難」「無駄をなくす『遠回りな』提案」などと続き、「まとめ:歳出削減は難しい」で終わる。「やれやれ・・・。そうなら、『財政破綻』で実質的に強制されるまで・・・」と暗い気持ちになる読者が多いかもしれない。
short noticeの強要されたようなテーマでのお願いを快諾し、興味深い内容について要領よく報告していただいた井堀さんに深謝します。
 井堀さんの報告用資料は以下からダウンロードできます。(文責:三輪芳朗)

 田中秀明さんから提供された関連資料のリストは次の3点です。
・「基礎年金の一元化を急げ」『エコノミスト』2008年3月25日号、52〜55頁
・「論点 消費増税と一体改革 社会保障見直し不十分」『読売新聞』2012年4月11日
・「財政再建 成功国に学ぶ(下) 規律守る政治の仕組みを」(経済教室)『日本経済新聞』 2011年11月18日                             


*このページのトップに戻る

論点
整理メモ2
2012.9.20
(木)

 [5]は会合の記録ではなく、研究会メンバーの参考資料として作成された「論点整理メモ2」です。これからも、適宜、このような「資料」等を掲載する予定です。

[送り状(2)]                          September 20, 2012
第1回会合で報告の素材とした「論点整理メモ」の続編です。続編といっても、当初から予定されたものであり、相互に補完関係にあります。「論点整理メモ」は第1回会合議事録の末尾からダウンロードできます。
「論点整理メモ2」は、9月上旬に三輪が作成したものに、研究会メンバーのコメント等を踏まえて改訂したものです。
「財政破綻後の日本経済の姿」について考える参考にと、ソ連邦崩壊前後の旧ソ連邦諸国、とりわけ1990年代のロシアに大きな関心を寄せています。5頁に言及したソ連邦崩壊前後の時期に、ロシアで死亡率(それも中年男性の死亡率)が急上昇したことに関連する記述に関連して、メンバー間で議論が盛り上がりました。その一端を整理して、6頁以下に収録しました。
「論点整理メモ2」を念頭に置いた議論が研究会でもこれから本格化します。
(文責:三輪芳朗)


*このページのトップに戻る

第4回
2012.8.28
(火)

 今回の会合では、日本銀行の神山一成氏から「長期金利の水準評価」と題する報告を受けて討議した。国債価格の動向・今後の予想に限定せず、近年の長期金利の動向や金融政策に関わる多様な論点について幅広く話題にして意見交換することを念頭に、a short noticeで報告あるいは話題提供をお願いした。例によってオフレコであることを前提にした。持参された資料に基づく報告を受けて討議し、後半は自由な意見交換となった。報告用資料は、多少の修正のうえでダウンロードできるようにした。
 明確なテーマに関する研究会合ではなく、また具体的な質問事項群に沿った報告・意見交換ではない。多様かつ豊富な内容の自由・活発な意見交換の場であり、金融資本市場・金融政策などに関わる議論との接点の少ないメンバーにとってはとりわけ得るところの多い会合であった。
最近15年程度の期間に限定しても、何度も長期金利の急上昇が観察される。なかには10年債金利で2%近い幅の急上昇も含まれる。量的金融超緩和政策・ゼロ金利政策などの表現に慣れすぎた参加者の中には、「同様のことが今秋にでも起こったら・・・」と改めて考えた者もいたはずである(資料の1頁を参照)。当然、急騰中には、「これは何処か近くで止まる」と確信できたわけではないし、いったん上昇が止まったとしてもその後どちらの方向に動くか明らかだったわけではなかろう。3頁の図を見て、「最近でこそ長期金利はあまり動かないが・・・」と1970年代を懐かしく思い出す読者も少なくないだろう。
 「参考資料」の最初(12頁)の図を見て、ユーロ導入の効果・影響の大きさおよび最近の動きと導入以前の動きとの関連性の双方に注目する読者も少なくないだろう。また、財政状況に関する14頁のおなじみの表を見た後で、マネタリーベースに関する15頁の図に注目する読者も多いだろう。「日銀はさらなる金融緩和を積極的に推進すべきだ。欧米諸国に比して金融緩和が中途半端で不足している・・・」というおなじみの主張の大合唱の長期継続と対比して、首をかしげる読者も多いだろう。「2009年前後の比率の上昇幅が相対的に少ない・・・」ことに注目しているのかもしれない。「金融緩和」を積極推進した日本を含む国々で共通に観察されたのは、マネタリーベースの大幅増加と並行する中央銀行預け金の激増である。金融機関貸出はあまり増加しなかった。これ以上の「金融緩和」に何を期待するのか、といぶかしく思う読者も多く、「実質は、国債の中央銀行引き受け推進の主張と変わらない・・・」と納得する向きも少なくないだろう。
 もちろん、神山氏が、以上のような趣旨で研究会参加者を説得しようと努力されたのではない。「失われた20年の元凶は日銀の金融政策であり、一貫して中途半端だった・・・」とか、「成長戦略の中心となるべき日銀の金融政策が消極的だから・・・」とか、「インフレ・ターゲットを早くから設定して積極姿勢を明示すべきだったのに・・・」とか言われ、「金融政策・金融論の基本に忠実であるべきだ」と説教され続けてきた日銀マンの一人として、かなり熱心に説明と解説の努力をされた。メディアなどに登場する大合唱の継続から、研究会参加メンバーの少なからぬ部分が同様の見解・意見を持っていると想定されたようであった。しかし、たとえていえば、東側にいると想定して展開した説明・解説(日銀の政策の弁護)の受け手のほとんどが西側に位置して、「なぜああいう金融超緩和政策を継続したのか?なぜ有効だと考え、今もそういう説明をし続けるのか?今後も同様の政策を継続・強化するのか?」という疑問を背後から投げかけて、方向の異なる説明・解説を求めた。
 その後、まったく自由な意見交換に移行し、さらに、「財政破綻」という状況までは及ばないとしても、今後の国債価格や長期金利の動向の見通しにまで話題は広がった。議論の内容はオフレコであるが、神山氏がこの段階での議論を主導されたということはない。
 結果からすると、メディア等に頻出する金融政策論議とかなり距離がある見方(「標準的見方」?)に基づく参加者の多様な主張を前に、戸惑い臆することなく主張を開陳・展開することになった。実り多い会合を実現された神山氏に深謝します。
 神山氏が用意された報告用資料は以下からダウンロードできます。(文責:三輪芳朗)


*このページのトップに戻る

第3回
2012.8.23
(木)

 今回の会合では、三菱東京UFJ銀行の内田和人氏(執行役員円貨資金証券部長)から「日本国債の中長期的なリスク分析と対応策」と題する報告を受けて討議した。本年2月2日の『朝日新聞』が1面に「数年後の国債急落を想定、三菱UFJ銀が危機シナリオ」の見出しとともに、日本国債の急落に備えた「危機管理計画」を初めて作ったことが分かったと報じた。「初めて作ったんだって・・・。紙にして、関係部署の外側にも説明した・・・という程度のことでしょう。そのまま信じて、追加取材もせず適切な解説も付けずに報じるなんて・・・」と苦笑した読者も少なくないだろう。この記事が騒動とでも呼ぶべき大きな反響を引き起こしたことに鑑み、われわれの報告依頼を快諾されたうえ、事前にお送りした「論点メモ」におおむね沿った内容の報告をし、会合の場での多様な質問・意見にも柔軟に対応していただいた内田氏に深謝します。
 すべての会合と同じく、会合の内容はオフレコであることを前提に依頼し、この「議事録」の作成についても、報告者の意向に沿うことになっている。報告と討議は研究会の活動の一環として行われる。「議事録」作成が目的ではない。今回に関しては、当日配布された資料も研究会限りとした。
「財政破綻」を象徴する現象・指標として国債価格の現在の水準と同時に今後の動向及びその予想にわれわれも重大な関心を抱いている。その一環として、現時点で大量の国債を保有している理由と今後の国債価格の動向に対する予測およびリスク管理体制などについて、投資家から具体的に考え方等を伺いたいと考えていた。報告依頼を快諾された後も、(的外れなものも含め)われわれの関心事項の多くについてまでお話しいただけるとは期待しにくかった。また、先方機関の内部においてさえ意見が一致していないこと、状況に応じて機動的かつ柔軟に対応するとされることも少なくないかもしれない。これらの点を含め、すべてを正確に語る誘因に欠ける(かもしれない)から、報告の内容をそのまま信じてよいかという慎重な姿勢も必要かもしれない。
 以上の如く考えつつも、われわれの関心事を明確にお伝えすることが研究会を実り多いものとすると判断し、かなり詳細な「論点メモ」を事前にお送りして、「参考のために作成したわれわれの関心事項です。支障のない範囲で参照してください」と申し上げた。「おおむねこのメモに沿って報告します」との回答をいただき、当日の報告および討議も、少なくともわれわれにとっては実り多いものとなった。豊富な資料に基づいて報告および質疑応答が行われたが、ここで提供できるのは、事前にお送りし研究会メンバーにも事前に配布された「論点メモ」のみである。
日本国債大口保有機関の中で三菱東京UFJ銀行のようなメガバンクが平均的な存在だと考えているわけではない。また、圧倒的に大きなシェアを占めると考えたわけではない。リスク対応能力が相対的に高いと思われるメガバンクの1つから、「国債保有」の現状と「国債危機管理計画」などについて具体的な内容の報告を受けて討議したと考えた。研究会メンバーにとっては実に有意義な会合であった。
 平成21年度末で、銀行等が保有した日本国債の割合は37.9%であった。しかし、都市銀行に限定すると15%強程度に低下し、圧倒的比重を占めたということはない。ちなみに、保有国債の平均残存期間は、第1地銀の4.75年、第2地銀の4.78年であったのに比べ、2.21年であった。
 都市銀行の国債保有残高および発行残高に占める比率が2000年代に入って増加・上昇し、とりわけ近年その趨勢が加速している理由として、預金の増加と貸出の減少があげられる。リスク分散のために海外での資産運用を増加させるには、外貨に転換するコストとリスクが重要だという。また、近年の世界的な金融市場の混乱に対応するために厳しくなりつつある各種規制が、たとえば融資に比して自国債への投資を有利にしている。このような状況下で、国債価格が大幅に低下するリスクがあるとしても、直近でそれが現実化する可能性が高くないと考えれば、国債保有の増加につながる。これが提示された解説であり、これをめぐってさまざまな角度から議論が展開した。
 「国債価格の今後の動向を判断する資料・情報として何に注目するか?」という質問との関連で格付けが話題になり、「格付けの引き下げが現実化する際にいかなる指標が重視されると思うか?」という点が話題になった。とりわけ後者の解説をめぐって議論が大いに盛り上がった。前者については「正解」のようなものはあり得ないし、微妙な点も多く、社内リストが存在するとしてもweight配分などについてまでのお話を伺うは期待できそうにない。後者については、提示された解説の各項目および全体について疑問を提示したうえで、「格付けは、投資家の動向を見ながら投資家向けの参考指標として格付け会社が判断・提示するものであり、関連解説は変更理由の解説を求める投資家・メディア・政治家・その他に向けてもっともらしい理屈を並べるものでしょう。だから、それが厳格な意味で説明になっていないとしても不思議ではありません。銀行の担当者も、上司等に説明を求められれば同様の課題に直面するでしょう。理屈は後からトラックに乗ってやってくるとも言います・・・。そもそもそういうものだから、あまりこういうことを話題にしても・・・」と三輪が発言して、参加者の多くの笑顔とともに議論は沈静化した。
 強引な依頼を快諾し、かなり立ち入ったわれわれの関心を示す「論点リスト」を真摯に受け止めてこれに沿ってご報告をいただき、口うるさい参加者の質問等に我慢強く対応していただいた内田氏に深謝します。(文責:三輪芳朗)

 討議の基礎となった「論点メモ」が下記からダウンロードできる。


*このページのトップに戻る

第2回
2012.7.27
(金)

 

  第2回会合では、事務的な打ち合わせと意見交換・食事を挟んで2つの報告・討議があり、会合は合計6時間に及んだ。
研究会全体に関わるので最初に[打ち合わせ等]について記し、[前半の報告と討議]、[後半の報告と討議]の順に続ける。

[打ち合わせ等]
 研究会の目的と内容、研究の進め方、全体会合の位置づけなどの具体的内容・イメージについては、呼びかけ人の間でもスタート時点で明確だったわけではない。事前の了解に基づいて作成した計画を最終的に承認してWebPageの開設を決定した第2回会合時点では、報告者はもちろんほとんどの参加メンバーにとっても、これらの点に関する理解・イメージは明確ではなく、イメージを共有したわけではない。
 「財政破綻後の日本経済」の姿について本格的に考えたこともなく、関連研究等をほとんど目にしたこともない研究会メンバーのほとんどにとって、「破綻後」の姿に関する研究を開始することの重要性については合意したとしても、検討課題の具体的内容と研究方法を明確にイメージし了解することは容易でない。呼びかけ人にとっても状況は大きくは違わない。試行錯誤を積み重ね、時間をかけて具体化する以外の選択はないと考えていた。
 研究会スタート後に「破綻後」の姿について研究課題と方法を具体化して検討を進めるとしても、そのような課題に即した研究会合を開くことは可能でないし、生産的でもない。当初は、現状および「破綻」に至る過程に関わる情報を収集・整理して、「破綻後」の姿に関する検討の基礎を固め準備を整えること、それを通じて「破綻後」の姿に関する検討課題を明確にすること、さらに多岐にわたることが予想される各論点に特化する各メンバーの共通基盤を形成することを会合の中心課題とした。
 以上の事情と理由のため、第2回会合(およびそれに続く数回の会合についても同様だろう)の報告者のみならず参加メンバーの多くも、「こんな報告と議論のどの部分がどのように『破綻後』に姿に関わるのか・・・?」という疑問に悩まされるかもしれない。議事録の読者についても同様だろう。
「『財政破綻後の日本経済の姿』に関する研究会の検討課題にとって、『財政問題』『金融問題』が中心だということはない。国民生活・実体経済に対する深刻な影響の内容こそが検討課題の中心になる・・・」と言われ、なんとなくそのように思うとしても、具体的イメージが湧きにくいと困惑する読者のための例示である。こういう類のことがいろいろと起こるはずである。もちろん、現時点でそういう事項の網羅的リストを作成できれば、検討もかなり楽になる。
 2012年7月25日号のNewsweek誌日本語版は「財政破綻で巨大ゴキブリがナポリを占拠」と題して次の如く報じた。7月上旬に市内の下水道で卵からかえった大量のゴキブリが地上に進出し、今のナポリは巨大なゴキブリの大群に、文字通り占領されている。「政務危機のあおりで清掃局の予算が削減されたため、この1年間は一度も下水の清掃や消毒をしなかったせいだ。」
 この研究会は、報告書のようなものの作成を予定していない。のみならず、研究課題および検討方法の選択・設定に関しても、試行錯誤を積み重ねながら明確化し改善していくことを想定している。

[前半の報告と討議]
 午後3時に開始した前半の会合では、財務省財務総合政策研究所の上田淳二氏から「日本の財政に関する長期シミュレーション」と題する報告を受けて討議した。上田氏が本年2月に刊行された『動学的コントロール下の財政政策――社会保障の将来展望』(岩波書店)をベースにした報告である。アメリカの連邦議会予算局(CBO)をはじめとして、各国で政府財政の将来像が策定・公表されてきた。とりわけ近年は「財政破綻」との関連性が強く意識されるようになり、たとえば、「財政破綻に至らないためには、どの程度の規模の財政余剰(財政赤字ではない)を継続的に計上し続けることが必要か?」という視点からの検討が盛んになり、研究者によるものを含め、多くの試算例が公表されている。しかし、日本に関して公表された同様の試算例は多くない。状況が深刻化してしまった現状では、そのような作業の実施・結果の公表には多少の「勇気」が必要かもしれない。膨大な作業に基づく成果を取りまとめた上田氏の最新の書物にわれわれも大いなる関心を抱いた。
学会での報告ではないし、専門的研究者の研究成果としてお話を伺ったのではない。メンバーの多くにもそのような素養・資格があったわけではない。膨大な作業の成果に関して短時間に報告を受けたのであって、研究会の今後の活動の基盤となる財政状況に関するおおまかな基本イメージを得ることを目的とした。
 「EUと同様の考え方で、2012年時点で、日本の動学的財政不均衡の大きさを計算した結果は、対GDP比11.3%であった」というのが中心となる結論である。つまり、「財政破綻」を招来しないためには、対GDP比11.3%の財政収支を改善する必要がある(消費税率の10%への引き上げはすでに織り込んでおり、それに加えて、これだけの収支改善の必要がある)。「そりゃあ無理だ・・・。それじゃあ、破綻は不可避だ」と考える読者が少なくないかもしれない。しかし、そのような判定あるいは予測は上田氏の作業の目的・工程には入っていない。「この数字を公表した後の、周囲あるいは読者の反応はどのようなものでしたか?」という質問に対する上田氏の回答は読者の想像に任せる。三輪も含め、この書物の存在を認知していた参加メンバーが多くはなかったことに状況は象徴されるだろう。
 この数字および数字の導き方に対する関心が高まって「財政再建」「財政問題」「財政破綻」「社会保障」などに具体的内容を伴った議論が行われるようになることを想定して、少し情報を提供し、さらに、若干の留意点を記しておこう。
「50年後の債務残高の対GDP比率を60%に引き下げるために必要な財政収支改善幅の対GDP比率を求める」という問題設定である。債務残高を0にするというものではない。マクロ経済学の標準的なtextbookで紹介されるthe government budget constraintにおおむね沿った検討方法のように見える。毎年巨額の財政赤字を計上し続ける日本政府が、対GDP比11.3%の財政収支改善を行う必要がある、とする。
 三輪は、この数字はかなり甘い想定のうえに導かれていると考えている。たとえば、今後大幅な上昇が予想される医療費支出の対GDP比率が、ここではさほど上昇しないと想定されている。またスタート時点での政府債務残高から年金積立金を差し引き、債務の対GDP比率を155%から60%に50年かけて引き下げることが必要とする設定は妥当か?「財政破綻」は「破綻した」と宣言する時点で壁に衝突するようにして現実化するのではなく、いずれ政府の債務返済が滞るだろうと投資家が予想する時点で国債価格下落・金利上昇・政府の資金調達コストの上昇・物価上昇として始まる。だから、40年後に危なくなると投資家が予想すれば、現時点で困難性が現実化する(fiscal theory of the price level)。さらに、次第にそのおそれが高くなれば、割引率が上昇するから、必要な財政余剰の幅が増大する。財政破綻を視野に入れることが少ない従来型の計算枠組みの設定では、このような要因は軽視あるいは無視される。金利上昇は民間経済活動を圧迫して成長率を低下させるかもしれない。政治的な実現可能性に対する投資家の評価も重大な要因となる。
 いろいろ気にかかる点がないわけではない。とはいえ、「財政再建」「財政破綻」などの「財政問題」に関わる議論の1つの土台を提示した重要な成果であり、報告依頼に快く応じ、口うるさいメンバーの質問等に我慢強く対応して下さった上田氏に深謝します。
 上田氏が用意された報告用資料は下記からダウンロードできます。

[後半の報告と討議]
 6時開始の後半の会合では、国立社会保障・人口問題研究所の西村周三氏から「財政破綻と社会保障」と題する報告を受けて討議した。
[打ち合わせ等]に記した如き状況下で、依頼した側もおそらくは依頼を受けた側もかなり漠然とした状態のまま報告が計画され、実現したと考えるのが妥当だろう。その点を考慮して、依頼側の何人かの意見を収集して三輪がとりまとめた「各論メモ」をほぼ2週間前にお送りして、適宜選択して可能であれば言及してくださいとお伝えした。しかし、研究会スタート後間もない時点での状況のためもあってほとんど効果はあがらなかった。(参加メンバーにも事前に配布されたこの「各論メモ」についても下記からダウンロード可能。)
 用意された「財政再建と社会保障」と題するメモ、および2つの資料に基づいて報告され、議論が行われた。依頼が「年金」に言及して行われたこともあり、年金「問題」の専門家の間で最近話題になっていることが話題の中心となった。このためもあり、なかなか議論が盛り上がらなかった。議論の内容および議論が盛り上がりに欠けた理由等については読者が想像されればよい。とはいえ、「年金問題」に関する研究会メンバーの理解は大いに進んだ。
 西村氏が年金よりも医療分野の研究者としてより高名であることに鑑み、途中から「財政破綻」あるいはそのおそれが浮上した時点での医療分野への影響に話題が移行した。供給側を含めてforward-lookinglyに対応する経済主体の行動の影響が「財政破綻」の顕在化に先行すると予想しその影響を懸念する三輪のような参加者にとっては意外なほど西村氏(および財政の専門家の多く)の予想は楽観的であった。西村氏には、医療に関わる議論でも今後の研究会の活動に大いに貢献していただいた。
 突然のしかも漠然とした内容の依頼を快くお引き受けいただき、当日も散発的かつ雑多な質問等を前にしてなかなかかみ合わない議論に我慢強くお付き合いいただき、さらに予定外の医療に関わる議論にも快く応じていただいた西村氏に深謝します。 (文責:三輪芳朗)

 関係資料は下記からダウンロードできる。

*このページのトップに戻る

第1回
2012.6.22
(金)

  「もはや『このままでは日本の財政は破綻する』などと言っている悠長な状況ではない」とし、「財政破綻後の状況や破綻後に直面する国民的課題・政策課題に焦点を合わせた議論・研究を開始する必要がある。」われわれの間にこのような話題が登場したのはかなり昔のことである。「『専門』でもないし・・・、ただでさえ忙しいから」と言いつつ、「誰か・・・」と期待してきた。実現可能性が高いとは考えていなかった。「具体的に何に焦点を合わせて、どのように検討すればよいか?」「開始したとして、ほとんど利活用を期待できない関連情報・資料の壁に、どのように対応するか?」「この騒々しい世の中で、こんなpolitically and/or socially sensitive issuesを取り上げたらどういうことになるか・・・?」などと考え、「誰か、若くて元気な人・・・」と見果てぬ夢を抱くことになってきた。
 3月15日のCARF特別セミナーで貝塚氏が「財政再建の変質――目標として説得力を失うか?」と題して報告し、フロアから三輪が上記の如き話題を提示したことが本研究会発足への直接の契機となった。討論者の井堀氏のみならず、少なからぬ参加者が「その通りだ・・・」との反応を示した。3月末に東大を定年退職して大阪に本拠地を移した三輪が5月初めに貝塚氏と京都で会食し、本研究会の発足およびその具体的内容について協議した。
 CARF(東京大学金融教育研究センター)に拠点を置くことなどの基本的枠組みと研究会の運営体制を決定し、参加メンバーを確定し、第1回会合を6月22日夕刻に開催することとした。メンバーへの参加呼びかけのためにも研究会の活動内容のイメージを具体化する作業が不可欠と考え、関係者の協力を得ながら、具体的検討課題のリストを作成し各課題の検討内容・方法を三輪が例示・整理した。
 6月22日の第1回会合は、事前に配布した「論点整理メモ」に基づき三輪が研究会発足の趣旨と運営の基本的な考え方、主要な論点の候補などについて説明し、意見交換を行った。研究会発足の基本的狙いと「何が始まろうとしているのか?」という点についてこれでようやく不十分ながらもイメージでき始めた参加者も少なくないはずである。(関心のある読者のために、このメモに何度かの改訂を加えたものが下記からダウンロードできるようにする。)
 7月27日の第2回会合までに、研究会の名称の決定を含めた残された課題の検討を進めつつ、各メンバーの関心の強い分野を中心に検討課題およびその内容・方法のさらなる具体化を進めることとした。同時に、当面の全体会合のものとして次の如き検討課題を想定した:(1)今後の財政収支の見通し;(2)国債価格の下落が金融機関や年金基金に与える影響の大きさとその社会的影響の方向;(3)財政破綻が年金に与える影響の大きさと態様;(4)財政破綻が医療保険と医療産業に及ぼす影響の大きさと方向性・態様;(5)「財政破綻」後の姿とscenariosについて歴史に学ぶことを想定し、たとえば、ソ連邦崩壊後の旧ソ連・東欧諸国の姿・状況に関する情報収集。さらに、中国返還前後の香港、混乱期のアルゼンチンやメキシコ、最近の南欧諸国などの状況について。(文責:三輪芳朗)

*このページのトップに戻る
   

ワークショップトップ

Copyright (C) Center for Advanced Research in Finance (CARF)