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第6回会合

今回は青山学院大学の福井義高さんから「鉄道は生き残れるか:ある公共事業の半世紀」と題する報告を受けて、討議した。本年8月に刊行され少なくとも一部では大きな話題になっている福井さんの『鉄道は生き残れるか:「鉄道復権」の幻想』(中央経済社)が、本研究会の検討に大いに参考になると判断して、趣旨に合わせた報告を依頼した。
 国鉄赤字転落(1964年度)から分割(1987年)まで22年であった。分割から今年で25年経過した。歳出削減・サービス内容の見直しなどが遅々として進まず、分割・民営化を契機としてようやく少し進んだ。しかし、その後の25年を回顧すると、政府の財政削減と同様(あるいはそれ以上に)、見直しは容易でないことがわかる。このことを呆れるほど実感させる内容である点に注目し、過去のプロセスと問題点の具体的内容、そのような事態が発生する理由とメカニズム、今後の課題の具体的事例などについて、「財政破綻後の日本経済の姿」を考えるうえで参考になることを念頭に置いて報告することを求めた。「ある公共事業の半世紀」という副題は、この要請に沿ったものである。
 たとえば、東海道新幹線を運営する独占企業であるJR東海は、必要があれば料金引上げによる収入増加が実現可能であり、激しいインフレ以外の実質増収策が残されていない状況に近い将来に陥る恐れが高い政府とは決定的に異なる。政府の歳出であれば、歳出に見合った便益が得られる(benefit>cost)ことを示すことが各歳出項目に強く求められるようになっている(これが有効に機能しているということではない)。しかし、料金値上げを求める事態にでもならなければ、JR各社が提供している個々のサービスあるいは全体について、同様のことが求められることはない。壮大な無駄と判定されかねない事業についても、その縮小・廃止を求められることはない。不満な利用者の多くも実態を知らないし、声を出す手段もなく、まして実現手段はない。このような状況下での「歳出見直し」がどのようなものとなるか・・・という興味深い社会的実験が壮大な規模で半世紀にわたって進行しているとして、その現場からのリポートを求めたことになる。
 とりわけ書物の後半部分は具体的かつショッキングな内容に富んでいる。青函トンネル、整備新関線、リニアモーター、鉄道貨物、四国の鉄道、三陸鉄道などの具体的話題が次々登場し多くの読者を圧倒ずるはずである。報告用メモでは書物および報告内容に比してあまりに淡白だからと、具体的話題のコラムを事後的に補充していただいた。
 「読んでほとんど違和感がない内容ですが、どうしてこういう話題が提供されてこなかったのでしょうね・・・」という一参加メンバーの感想に対して、様々な感想が表明された。「鉄道に関する話題に関心を持ち、意見を表明する人たちの圧倒的多数派が、マニアというかオタクというか、鉄道ファンなんですね」という意見と、「新聞・テレビ・雑誌の関係者も含め、鉄道好きが多いのですね・・・」という苦笑・ため息で議論は収束した。
 時代状況にマッチした書物を刊行し、それに基づく興味深い話題を提供していただいた福井さんに深謝します。
 福井さんの報告用メモは以下からダウンロードできます。(文責:三輪芳朗)