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第12回会合

今回の会合では、明治学院大学経済学部の斉藤都美氏から「ソ連・ロシアの医療・健康問題と日本へのインプリケーション」と題する報告を受けて討議した。
 日本政府の財政破綻の影響は、政府およびその周辺に限られず、日本国内(さらに世界中)の国民生活に及ぶだろう。しかし、その影響の具体的内容と深刻さ、影響の及ぶ時間の長さなどが話題となることは稀である。「そんなことは考えたことも、想像したこともない」とする圧倒的多数派とは別に、「そんなありそうにない・・・」「誰かが何とかしてくれる・・・」「できれば知りたくない・・・」「心配しても始まらない・・・」などという多様な理由に基づくだろう。「破綻後の日本経済の姿」について考える研究会をスタートして1年が経過した。
 今回のテーマは、破綻後に起こる事態のうち最も関心が高い分野・側面の1つである「医療問題」に焦点を合わせる検討プロジェクトの一環である。また、高齢化の進展とともに膨張する医療費にどのように対応するかという先進各国共通の「財政問題」の中核にも関わるから、「財政破綻」が顕在化しなくても、おそらくは直面することとなる国民的課題に関連する。
 財政破綻後に医療・健康に関連していかなる事態が顕在化し国民生活に影響するか・・・という設問について検討することは容易でない。「いかなる事態」の具体的内容を明確化し、どの側面への「影響」に焦点を合わせるか、という検討課題の設定すら容易でない。それぞれの検討課題についてscenarioを考える際の選択肢がこれまた多様である。このためもあって、「重要だと思うし関心もあるが・・・」と具体的な一歩がなかなか踏み出せない。
 「それなら、実質的な財政破綻で長期間にわたる大変な事態を経験したソ連・ロシアの経験を参考にできないか・・・」と考えて文献を探索した。2001年に刊行された書物に収録されたChristopher Davisの論文を中心にした諸文献の内容を整理して、現在および将来の日本へのインプリケーションを念頭に置いた報告を斉藤氏にお願いし、これを素材にした意見交換を通じて今後の日本の医療・健康問題について考えるための基礎とすることとした。
 「政治」に関わるものを除けば、新聞・TV等を通じてわれわれが知ることができている1990年代以降のロシアに関する情報は驚くほど乏しい。日本語で読める書物について大きくは違わない。とはいえ、斉藤氏の努力に加えて出席者の多様な知識を照らし合わせながら、成果の多い会合であった。
 ソ連が崩壊してRussiaになったが、当初はほとんど税収がなく、貨幣経済が未発達であった。配給から市場へと大転換を余儀なくされた流通システムが大混乱・・・などという一般的な状況下でのスタートであった。崩壊に至るプロセスにあった1980年代のソ連の医療システムが置かれた状況も深刻であった。医療サービスは無料で提供されていたが、医療費支出の対GDP比率は3%程度であった。ここに、混乱期の賃金の遅配や関連物資不足が重なった。1990年代を通じて、大インフレ下で、実質GDPの大幅低下が継続した。
 「このようなロシアで何が起こったか、現実化したか・・・」という視点からの報告だから、明日の日本の姿を考える際の参考資料として興味深いと考える読者も多いだろう。読み方も読者により多様だろう。
 Davisは、「ロシアの医療体制の特徴・問題点は、ソ連時代から継続し、投入から産出まで、ソ連時代と驚くほど似ている」「各種医療・健康関連の指標に大幅な改善は見られず、むしろ悪化している指標も多い」などとする。
 国際的に大きな話題になったとりわけ中年男性を中心とした平均余命の急激な悪化につては、失業によるストレスやアルコールの過剰摂取の影響が顕著であり、医療システムの混乱・崩壊が決定的に重要な影響ではないようである。予防医療や公衆衛生面の対応がとりわけ重要なようである。
 破綻しあるいは破綻が迫る・・・という緊迫した事態下で急いで議論し、あるいは冷静な議論をすることなく対応を迫られることの帰結は、あまり望ましいものではないだろう。そのような事態の顕在化までの時間は限られるかもしれない。ソ連の経験などに照らした冷静な検討の開始が有用だろう。
「財政破綻後の日本家財の姿」との関連で医療・健康に関わる検討を今後も進める予定である。話題の提供、議論への参加など各側面で読者の協力を期待する。
 困難な課題に挑戦し、多くの文献を踏まえた興味深い話題・報告をしていただいた斉藤氏に深謝します。参考資料等は下記からダウンロードできます。