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第17回会合

今回は、倉澤資成氏から、D.Greenlaw, J.D.Hamilton, P.Hooper, and F.S.Mishkin, “Crunch Time: Fiscal Crises and the Role of Monetary Policy,” Revised July 29, 2013について紹介していただいて討議した。各所で大きな話題になっている100ページにも及ぶ大論文である。NBERのworking paperにもなっている。
 名目GDPに対する政府負債の比率が高くなると、国債金利の上昇を招き、政府負債比率の上昇をもたらす、というループが、政府債務問題を一層深刻にする。これがこの論文の主旨である。まず基本となるモデルが提示される。次いで、過去12年間の先進20か国のパネル・データを用いて政府の借入利子率の回帰式が推定され、たとえば、政府負債/名目GDPの比率と借り入れコストの間に(非線形の)有意な関係があることが確認される。各種の回帰分析に続き、財政危機が金融政策に与える効果に注目し、Fedのバランスシートのシミュレーションによって、2017-2018年には金利上昇により自己資本の数倍の損失を被るため、国庫納付金がゼロとなって、Fedに対する信認の低下が起こることが指摘される。
 資産購入プログラムによる損失の発生が、インフレ期待の上昇を招く可能性があること、さらにそれが金融緩和からの転換を難しくしていることを明らかにし、注目されているようである。
「このままいけばにっちもさっちもいかなくなるし、保有資産を売却して『出口戦略』を推進するとFedが膨大な額の損失を計上することになる。いずれにしても、Fedに対する信認の低下は避けられないのではないか・・・」という予想・不安を抱く多くのアメリカ国民、さらに世界中の人々にとって、「そうなんです・・・」とでも宣言するような内容の大論文である。「エコノミスト」のみならず、実務家や年金受給者を含む普通の国民の間で広く話題になっても不思議ではない。もっとも、例によって、日本ではそういうこともないらしいし、「状況がより深刻な(はずの)日本に関してこの結論がより強くあてはまるのではないか」という観点からの関心も耳にしない。
 いつもの如く、会合での議論は沸騰した。論文の内容を紹介する立場の倉澤氏は、多様な質問・疑問・批判について、「私は著者ではありませんので・・・」と言いつつ、質問・疑問については可能な限り論文に即して回答し、批判についても、「私にもわかりませんが、おそらくはこういうことではないか、と思います」と対応し、議論の盛り上がりに積極的に貢献するという模範的役割を演じられた。
 前回の三輪の報告との対比を念頭に置くと、基本モデルの想定(たとえばsteady stateに沿って推移するとする想定)や、将来の予期しない事態の現実化を誰も予想しないとする想定の妥当性など、重大な疑問が次々と浮上するだろう。当然、これらの想定が成立しなければ、導かれる結論にも重大な影響が現れる。たとえば、「2017―2018年に深刻な事態が顕在化するとするシミュレーション結果は、少なからぬ人たちにとって予期しない事態ではなかろう。そうであれば、それ以前(たとえば、分析時点である現在)の金利上昇に結果しないのか?しないとすれば、その理由は・・・?この論文が話題になる場所では、そういう素直な疑問は提示されないのですか?」という疑問も浮上した。(ちなみに、この疑問に対する倉澤氏の回答は、「この論文は、そういううるさい人たちが参加するような場所ではあまり話題にならないのではないか・・・」というものであった。
 素直な読者には、モデルの設定、回帰分析の内容、シミュレーションの内容と解釈、さらにこの論文が各所で話題になった理由など、多方面にわたっていろいろ考える楽しみに満ちた論文である。
 この長大な論文の内容を咀嚼して紹介し、うるさい参加者の多面的な質問・疑問・批判に適宜対応しながら、「そんなことは著者に聞いてくれ・・・」などという台詞を口にすることなく、我慢強く議論の盛り上がりに貢献された倉澤氏に深謝します。倉澤氏の報告用メモは下からダウンロードできる。
 また、原論文はhttp://dss.ucsd.edu/~jhamilto/USMPF13_final.pdfからダウンロードできる。