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第19回会合

今回は、福井義高氏から「2013年ノーベル経済学賞に見るファイナンス実証研究の動向」と題する報告を受けて討議した。今回も「金融システム研究フォーラム」との共催である。2014年に入ってからも国債を中心とする日本の資本市場、さらに日本経済が平穏かつ安定的に推移している。このような少なくとも一部の参加メンバーにとって「想定外の事態」の発生原因・メカニズムに注目して、ファイナンス分野の研究、とりわけ実証研究の進展がその理解の参考にならないかと考え、取り上げてみることとした。
 近年のファイナンス研究は、いろいろな理由から私のような専門外の研究者にとって敷居が高く、いかなる研究が展開され成果が実現しているのかなかなか見当がつかない。日本のファイナンス研究者の世界で理論家の比重が高いこともあり、実証的視点に基づく関心を満たすのは容易でない。今回のノーベル経済学賞は、ファイナンス分野の実証研究に焦点を合わせたものである。“Understanding Asset Prices”と題するThe Economic Sciences Prize Committeeの授賞理由説明文についても、これならなんとかなりそうだと考えた。とはいえ、活動期間が長くかなりタイプも異なる3名の研究者への授賞決定後に作成された文書である。「今日では多くが常識として定着してしまった内容を並べた、こんな散漫な文章をわれわれに『報告』しろ・・・というのではありませんよね」と言われ、報告を福井さんにお願いして、ファイナンス研究者にも積極的に議論に参加していただいた。報告では、この文書の内容を基礎とし、インフレ期待と貯蓄・投資の配分を念頭に置いて、consumption-CAPMに関わる研究に焦点を合わせることをお願いした。(ちなみに参加者の多くは「行動ファイナンス」と呼ばれている研究分野にほとんど関心がないし、この表現自体に強い違和感を覚えている。また、授賞理由を解説する文書が公表されていることを今回初めて知ったメンバーがほとんどであった。)
 もちろん、「これで日本国債の価格の現状がうまく理解できる」などと期待したわけではないし、結果として「少しは理解できるようになった」ということもない。状況を象徴する、長期間にわたって “equity premium puzzle”をめぐって展開された一連の研究の現状を見て、実証研究のむずかしさを改めて痛感した(ここで注目している実証研究の方法は、多くの研究分野で主として用いているt検定ではない。念のため)。残念ながら、私は「まだやるべきことが多くあって楽しみだ・・・」と武者震いするほど若くはない。
 授賞理由説明文の13頁のevent-studyの図(dividend announcement dayでcumulative average abnormal returnが一挙に上昇し、その前後では安定しているという図)について、「本当なの・・・?」と当日大いに話題になった。後日、参加メンバーの一人が原論文にあたって確認したところ、少なくとも曖昧なところがあり、集計対象の一部を選択したもの(その方法は必ずしも明確ではない)だとのことである。受賞者決定後に、おそらくは3名の研究者についてもっともらしくバランスの良い授賞理由解説文の作成が依頼されたのだろう。専門家ではない私のような人間の目から見ても苦心・苦労の跡が見えるような気がする。ざっと眺めることを目的とするのではなく、関連分野の勉強のための入り口として手にする文献としてはあまりお勧めではない。
「想定外の事態」だとしても「あり得ない事態」だと考えているわけではない。高齢の生活者として「『想定外の事態』ですねえ・・・」と言いつつ、「天災は忘れたことにやってくる・・・ともいう」という気分で春を迎えている。面倒な課題と要望に応える報告をし、飛び交う多様な質問・発言にも要領よく対応していただいた福井さんに深謝します。
 Reference付きの報告用資料は、以下からダウンロードできます。