Event

過去のイベント

第20回会合

現政権下の経済政策は、非伝統的な金融政策をはじめとする大胆な財政金融政策の採用によって人々の期待形成に働きかけようとしている、としばしば指摘されている。しかし、人々の期待がどのように形成されるか、そもそも人々の期待は多くの経済理論で想定されているように合理的なものなのか、等は必ずしも明らかではない。
 金融システム研究フォーラムとの合同研究会である今回の研究会では、投資家の期待形成に関して議論した。まず、投資家の期待形成を取り扱った最近の研究であるGreenwood/ Shleifer (2014)に基づいて、新井がその研究概要を紹介するとともに、彼らが米国市場で見いだしたのと同様な事象が日本市場についても観察されるか否か簡単に検討した結果を報告した。Greenwood/ Shleifer (2014)は、機関投資家および企業の財務担当者等を対象に行われてきたGalupなど6つのソースのサーベイ調査に見られる株式の将来リターンに関する投資家の期待について分析した論文である。多くのファイナンス研究者の間では、従来、この種のサーベイ調査は、信頼性が低いとして軽視されてきた。しかし、Greenwood/ Shleifer (2014)は、6つのソースのサーベイ調査を分析した結果、これらの調査結果は、決してランダムな雑音ではなく、多くの投資家の期待を捉えた注目に値する情報を含むものであると指摘している。彼らの主なファインディングは、次の通りである。(1)各ソースおける期待間には高い相関がある、(2)期待は株式ミューチュアルファンドへの資金流入と正の相関を持つ、(3)投資家の期待は、過去1年のリターンが高ければ(低ければ)、今後1年のリターンも高い(低い)と予想するという外挿傾向を持つ、(4)投資家の期待は配当利回り等の変数を用いたモデルに基づく期待リターン(ER)と負の相関関係がある、(5)期待は株式市場の将来パフォーマンスと弱い負の相関がある。
 こうしたファインディングをもとにGreenwood/ Shleifer (2014)は、以上の結果は、単一の代表的なエージェントを想定した従来のモデルと整合的ではなく、前述のファインディングを上手く説明する別のモデルが必要であると主張している。GreenwoodとShleiferの2人も共著者になっている最近発表された”X-CAPM: An Extrapolative Capital Asset Pricing Model”と題されたBarberis/ Greenwood/ Jin/ Shleifer (2014) は、こうした問題意識に対して彼ら自身が出した答えであると考えられる。彼らのモデルでは、複数の異なる行動を取る経済主体が市場に存在すると仮定して資産価格モデルが構築されている。
 一方、日本の機関投資家の株式の将来リターンに関する期待にもGreenwood/ Shleifer (2014)が、見いだしたのと同様な現象が見られるかをQSS(Quick Survey System)株式調査データを用いて簡単に検証してみた。サンプル期間が短い予備的な検証結果に過ぎないが、次のような結果が得られた。(1)日本の機関投資家の将来リターンの期待は、Greenwood/ Shleifer (2014)が米国の投資家について見いだした外挿型(モーメンタム型)と異なり、過去の一定期間のリターンが高(低)ければ将来のリターンは低(高)いだろうと予想するリバーサル型であるという違いがある、(2)ただ、投資家の予想した将来リターンが的中しないという点においては米国と日本は共通している、(3)米国と同様に、日本市場でも配当利回りが株式の将来リターンをある程度予測する傾向が見られる。
 近年では、東証1部の委託売買の6割以上を海外投資家が占めるという数字に見られるように、現在の日本の株式市場は米国と異なり国内投資家中心の市場ではない。そのため、日本では株価見通しについて投資家サーベイを行う場合、国内投資家だけを対象にするサーベイでは不十分であると考えられる。
 なお、近年の日本の株式市場では海外投資家が買い(売り)越した月は株価が上昇(下落)した月であるという傾向が観察される。逆に、国内投資家は逆張りで、株価が値上(下)がりした月に売り(買い)越している。この現象は、一見、Greenwood/ Shleifer (2014)が指摘するように米国など海外投資家の期待は外挿的であり、一方QSS調査に現れているように国内機関投資家の期待はリバーサル型であるということと整合的であるように思われる。
 仮に、Barberis/ Greenwood/ Jin/ Shleifer (2014)が行ったように、市場に異なる行動様式を持った経済主体が存在すると仮定したモデルで資産価格の形成について考察するにしても、異なる行動様式を持つグループとして、どのようなものを想定するかはいくつかのケースが考えられるであろう。米国の行動ファイナンス研究等で時々想定されるように、(外挿型の)投資家vs.(合理的な)企業という枠組みで捉えるのか。日本の株式市場の場合には、国内投資家vs.海外投資家という枠組みで考えることもできるのではないか。
 今回の研究会の席上では、近年の日本の株式市場に見られる海外投資家主導の価格形成現象は、いわゆる「需給関係」を反映したものではないのか、また、そもそも一言に海外投資家と言っても、グローバルマクロなどの戦術をとる短期売買型のヘッジファンドも存在するし、ファンダメンタル分析に基づき長期投資を行う機関投資家も存在するので、「海外投資家」としてひとまとめにして論じるのには無理があるという指摘もなされた。さらに、グローバル・ポートフォリオ運用の一環としての日本株投資としての評価ということになると、ファンダメンタルズと株価との関係についても1国モデルよりも相当複雑なものになるであろうという指摘もなされた。
 報告用ファイル(Shleifer教授のslides等をもとに作成したもの)は以下からダウンロードできる。