Event

過去のイベント

第21回会合

日本の深刻な財政危機状態や2%の物価上昇率を目標に掲げる日銀の歴史的な積極的金融緩和策が続行されるなか、8月末時点の長期債の最終利回りは0.5%を下回っている。ある意味、不可解な現象である。われわれは過去2年間「現状の日本でなぜ国債価格の大幅下落、急激なインフレを伴う「財政破綻」は現実化しない、その予兆も見えないのはなぜか・・・?」という問題意識を抱き、研究会を続けてきた。そして過去数回の研究会では、日本の国債価格の形成メカニズム、とりわけ投資家の期待形成メカニズムや資産選択行動を解明する糸口を求めて関連するファイナンス研究について見てきた。
 今回は福井が、Peter Bossaerts [2002] The Paradox of Asset Pricing, Princeton University Pressを取り上げて報告を行った。資産価格評価モデルには、その他の証券の価格を所与として無裁定条件の下での相対価格をもとめるRelative Pricingと期待効用最大化に基づく最適化行動と均衡概念に基づく資産価格モデルの構築と検証を行おうとするAbsolute Pricingの2種類がある。今回対象にするのは後者である。Absolute Pricingの代表的なモデルにはCAPMやCCAPM等がある。これらモデルでは主観的確率分布と客観的確率分布が一致する(correct belief)というLucas(1978)型の合理的期待を前提にして理論が構築される。これにリターンの分布が時間に依存しないという定常性の仮定を追加してモデルの実証が行われている。しかし、実証研究の結果、CAPMもCCAPMも過去のリターンを上手く説明できてこなかった。その代表例がMehra/Prescott(1985)の指摘したEquity Risk Premium Puzzleである。このPuzzleに対応してHabit Persistenceを導入したり、危険回避度と異時点間代替率を分離した各種のRecursive Utilityが提案されてきたりした。
 こうしたファイナンス研究の流れに対して、Bossaerts [2002]は、「そもそも、投資家の合理性として、時系列で次々に与えられる情報を正しく理解することを超えて、あらゆる事象の事前確率を正しく予測することまで要求すべきなのか?」として、パラメータを追加することで「説明」しようとするアプローチに疑問を呈している。Bossaertsは理論のクリーンなテスト方法として実験経済学の研究に力を注ぎ、correct beliefも定常性も仮定せず、correct/efficient learningのみを仮定したEfficiently Learning Market(ELM)を提唱した。これは最初の事前確率は間違っていても、投資家はベイズ・ルールに従って時系列的に事前確率を正しく修正して行くというモデルである。そしてこのモデルを ポストIPOアノマリーの分析などに適用して分析している。Bossaerts自身は最近では実証ファイナンスの研究を「廃業」しているが、彼の提唱したELMはSargent に注目されCogley/Sargent(2008)に応用されている。Cogley/Sargent(2008)は1929年以降の大恐慌で投資家は過度に悲観的なbeliefを形成したが、こうした間違った事前確率を持って出発しても長期的にはベイズ・ルールに従って事前確率は正しく修正され、Risk Premium Puzzleを「解決」するシミュレーション結果を示している。  報告に対しては、Bossaerts の著作は2002年に出版された著作であり、現在時点から見ると内容がやや古くなっているのでないか、という指摘がなされた。「特に、金融危機後、ファイナンス研究において従来からのアプローチ以外の様々なアプローチが提案されており、現在は次代のファイナンス研究の方向の模索期にある。Bossaerts の”Efficient Market Hypothesis” に対する批判が的を射たものであることやELMが興味深いアプローチのひとつであることを否定するものではないが、最近のファイナンス研究を代表するものであるか否かに関しては疑問である。」というコメントである。
 なお、福井の報告の後、三輪から現時点および近い将来の日本国債価格に関する同報メールを通じたオープン・ディスカッションに関する提案がなされた。詳しくは添付ファイルをご覧いただきたい。
 福井、三輪の報告用ファイルは以下からダウンロードできる。