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経済セミナー4,5月号 松島斉教授インタビュー記事公開『この人を訪ねてvol.7 松島 斉さん「ゲーム理論のサポーターを増やしたい」』

経済セミナー(日本評論社)4,5月号掲載の、松島斉教授のインタビュー記事を公開いたしました。

 

インタビュー この人を訪ねて vol.7 松島 斉さん Hitoshi Matsushima

ゲーム理論のサポーターを増やしたい

◎Profile
東京大学大学院経済学研究科教授。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。筑波大学社会工学系助手、東京大学経済学部助教授、同大学院経済学研究科助教授を経て、2002年から現職。著書:『ゲーム理論はアート――社会の仕組みを思いつくための繊細な哲学』(日本評論社、2018年)。

 

自由に文章を書くのは楽しい!

――2月に『ゲーム理論はアート』が出版され、売れ行きも好調です。

松島 きちんとコンセプトを決めて、日本語で一般向けに、はじめて本を書きました。長年の念願が叶い、非常に満足しています。

――本を出すのが夢だった?

松島 もともと文章を書くのが好きでした。しかし、私がこれまで書いてきた学術論文は英語と数学を使ったものです。必要に迫られ専門家相手に書いてきましたが、苦痛な作業で、書くことに窮屈さをずっと感じていました。
でも今回は、英語も数学もいらない。自分のスタイルで自由に最初の原稿(経セミと日銀連載)を加筆していく作業は、実に心地よかった。

――内容に関しての構想はいつごろからお持ちだったのですか。

松島 10年ぐらい前です。そのころ、第4章「全体主義をデザインする」のもととなった論文の、海外における評価で、嫌な思いをしていたので。

――何が問題だったのでしょうか。

松島 私は、メカニズムデザインという分野の研究をしていて、契約理論も研究対象です。例えば、契約書を書いて取引が行われます。ここで、契約に書けるような内容は、書かれても問題ないことだけです。逆に、殺人の依頼を受けたときに、契約書にある人を殺してくれ、報酬は1億円、と書かれたとして、もしそれを実行した後に報酬の1億円が払われなかったとしても、裁判所に訴えるなんてことはできません。
なので、契約書を書かなくても、相手に約束通り実行させるような制度設計の研究を始めたのです。例えば、部下が不正をした、本当は上司の責任だ、しかし上司がやれといった証拠はない。こういう、いっさい証拠が残らない形でインセンティブを与える仕組みを考えたのです。
そうすると、人間の心理の問題が関係してきます。そこで、経済学のなかに「人間の心理」を入れた論文を書いたのです。
それには、本当にさまざまなコメントがレフェリーからきました。「契約をきちんと書く分析が望まれる」とか「テクニカルには新しいことがない」などと、どんどんリジェクトされました。最終的に掲載が決まった雑誌では、「『この論文の内容は、世の中の福祉に貢献するものだ』という一文を入れてほしい」とまで言われました。ところが私が研究したかったのは、悪いことをするための制度設計です。結局、できあがった論文はわけのわからないものになってしまった。
そこで、自分はいったい何をやりたかったのか、きちんと整理して表現せねばならない。自分がやりたいと思ってきたことが現代社会においてどのように位置づけられるのか明示的に示しておきたい、と考えるようになったのです。
結果として、書きおろしの第1章「ゲーム理論はアートである」は、自分の棺桶にいれたいと思うくらいに、完璧に書けました。

 

タイトルに込めた思い

――『ゲーム理論はアート』というタイトルからは内容は容易に想像できないかもしれません。

松島 衝撃的で、今までにない、まったく新しいタイトルであることを意識しました。「アート」は、ゲーム理論の最良の形容です。ゲーム理論にアートというフレームをつけたことは、本書の最大の貢献だと考えています。アートとゲーム理論は、ほとんど同じと言っていいくらい、とても似ているのです。

――どういう点で似ているのでしょうか。

松島 社会理論の使命は、見えにくい社会のしくみの本質を白日の下にさらすことにあります。社会のしくみの本質を「思いつく」、この行為はまさに創造であり、イマジネーションそのものです。ゲーム理論は、この創造的行為を実践する際の理想的なアプローチなのです。
一方、アートとは何か。アートもまた、抽象化によって、具体的な事物を超えて、隠された本質を見えるようにする創造的行為です。だから、社会科学とそっくりなのです。本書は、ゲーム理論は単にアートであるだけでなく、「最強のアート」でもあることを、注意深く、丁寧に、面白く、ごまかしなく、解き明かします。

 

社会理論としてのゲーム理論

――ゲーム理論の入門書としての側面と、発展的な側面の、両面があります。

松島 文章の難易度は高校生が読めるレベルを意識しました。しかし内容は、高校生から、一般社会人、さらには経済学やゲーム理論の専門家まで、広範囲にアピールすると思います。
扱っている問題は、経済発展、貧困救済、フィンテック、バブル、イノベーションといった経済学的テーマにとどまらず、いじめ、全体主義、監視社会といった社会問題全般をも取り込んでいます。節操がないと思われるかもしれませんが、読んでもらえれば、これらが雑多な寄せ集めではないことに気付かれるでしょう。
本質にもとづいてこれらの問題を分類するとそうなるのであって、ゲーム理論の達人の頭にある引き出しには、これらが一緒に入っているのです。引き出しには、具体的な問題解決のためのよき「基本方針」も仕舞ってあります。ゲーム理論は、この基本方針を適切に提示することによって、問題解決に必要とされる学際研究の大元締めになりうる有用な学問なのです。
このゲーム理論を広く知ってもらいたい。社会科学の大切さ、面白さを知ってもらいたい。私は、本書によって、「ゲーム理論のよきサポーター」を増やしたいのです。
そして、ゲーム理論を用いた政策やビジネスをプロモートしたい。そのためには、国民のサポートが必要です。だから、とても平易でユーモアに富んだ知的啓蒙書を書いたのです。こんな「究極のブラックユーモア」を、真剣に楽しんでほしいと思います。

[収録日:2018年1月16日]
【写真撮影:経済セミナー編集部】

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