ワーキングペーパー

会計

J-series

作成:

番号:CARF-J-052

利益情報の有用性と市場の効率性

著者:大日方隆

Abstract

この研究は,利益情報の価値関連性と将来リターンの予測能力を検証したものである。その分析は同時に,市場の効率性を検証することになる。この研究では,開始時点が異なる2 種類のリターンを分析対象として,クロスセクション分析とパネル分析を行い,分析手法にはブートストラップ法による回帰分析と系列相関を補正したダイナミック・パネル分析を採用した。分析の結果,日本市場もアメリカ市場も,経常利益,純特別損益,その他の包括利益の累積残高の情報にかんしておおむね効率的であった。決算日直後の1 年間のリターンにたいして,それらに予測能力がある場合でも,決算日の4ヶ月後から起算される1 年間のリターンにたいしては,その予測能力が消滅したり,弱まったりしていた。一方で,実証結果は,それらの利益情報をめぐってアノマリーが生じる可能性も示している。とくに,経常赤字,純特別損失,その他の包括利益の負の残高などにたいして,投資家は即座に完全な反応ができないこともある。また,日米の市場に共通して,期末の株価を経常利益に回帰したときの残差とその後のリターンとは負の関係にあることがあきらかになった。この結果は,利益資本化モデルによるファンダメンタル価値の推定値に向けて,株価が収斂することを意味している。この発見は,利益の価値関連性研究の前提条件に実証的な裏付けをあたえるものである。現在株価と会計利益との関係および将来リターンと会計利益との関係を統合した本研究は,パネル分析手法の選択にかんしても,将来の研究に向けて貴重な貢献をしている。

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