ワーキングペーパー

マクロ金融

J-series

作成:

番号:CARF-J-056

バブル崩壊後の金融市場の動揺と金融政策

著者:福田慎一

Abstract

本稿では、金融システムに深刻な問題が発生した1990 年代後半から2000 年代前半にかけての日本経済における金融政策のあり方を、プルーデンス政策という観点から再検証する。この時期、日本銀行はかつてない超低金利政策を実施した。「流動性の罠」のもとで、オーソドックスな金融政策がもはや有効でなくなった状況下で、極端な金融政策がいかなる効果をもたらしたかはいまだ議論が収斂したとは言い難い。分析では、まず1990 年代半ばから後半にかけて実施された日銀特融やロンバート型貸出のあり方を、局面ごとにピックアップし、その効果を考察する。次に、日中のコールレートの最高値と最安値の差(スプレッド)がリスク・プレミアムを反映して発生することに注目し、それがゼロ金利政策期や量的緩和政策期と、それ以外の期間でどのような違いがあるかを検討する。そして、当時の日本銀行の施策が、金融システムなど当時の日本経済の安定にどのような影響を与えたのかを、スプレッドの縮小が株価へ正の影響を与えたことを示すことによって考察する。超低金利政策は、短期金利の誘導目標を0%に近づけるだけでなく、コール市場で発生するスプレッドを縮小させる上で有効であった。とりわけ、量的緩和政策は、コールレートのスプレッドを大幅に縮小させ、コール市場の取引からリスク・プレミアムをほぼ取り去った。したがって、量的緩和政策などの究極の金融政策は、結果的に株価上昇のような経済全体のパフォーマンスの改善に役立った可能性が高い。究極の金融政策は、本来マーケットメカニズムで淘汰されるべき金融機関にモラルハザードを生み出す。しかし、それと同時に、市場の流動性リスクや信用リスクを減少させる上で極めて効果的である。本稿の結果は、超金融緩和政策はさまざまな問題点はあったものの、後者の役割が、特に量的緩和政策において、重要であったことを示唆するものである。

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