ワーキングペーパー

会計

J-series

作成:

番号:CARF-J-068

2008 年の不況ショックと企業の会計行動

著者:大日方隆

Abstract

本稿は,法人企業統計の年報調査にかんする非金融業の個票データ(1994 年度〜2008 年度)を使用して,2008 年度に生じた,金融危機後の不況ショックの影響を把握し,それが企業の会計利益にあたえた影響と,企業の対応行動とを分析したものである。本稿の分析から得られた主要な発見事項は,下記の4 点である。第1 に,2008 年の不況ショックは,非金融業の売上高と営業利益の減少を招くと同時に,株式相場の下落にともなう評価損の計上によって,純利益を減少させたものであった。ただし,①資金調達等の財務問題は深刻ではなかったこと,②赤字に転落した企業は,もともと事業の収益性が脆弱であったこと,③それまでの一部の「勝ち組」が消滅したために,全体としての影響が大きくなったこと,などは注意しなければならないポイントである。第2 に,利益の持続性は,2008 年度に大きく低下しているが,それは赤字転落企業や減益企業が大きかったためである。赤字転落や黒字回復などの符号変化をコントロールしたところ,調査対象とした15 年間において,利益の持続性が年々低下していることを示す証拠が得られた。第3 に,金融商品会計基準の導入や減損会計基準の導入は,投資有価証券や固定資産などの益出し売却行動に一定の変化をあたえているものの,益出し売却が消滅したわけではない。大規模企業は,経常利益の水準が低水準の黒字であるときに利益捻出をするという利益平準化行動を採用している。しかし,2008 年度の急激で大きな業績悪化にたいして,損失回避行動は断念している。第4 に,利益の構成要素の時系列変化,利益の持続性,利益平準化行動などは,資本金階層によって,顕著に異なっている。その相違のすべてが実態上のリアルな企業経営の違いによっているとはいえないであろう。中規模以下の企業が採用している会計基準の内容が定かではない状況は,多様な規模階層の企業を対象にして財務諸表数値の合算を行っている法人企業統計にとって新しい深刻な問題をもたらすであろう。

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