ワーキングペーパー

J-series

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番号:CARF-J-075

「不良債権」「不良債権処理の遅れ」「追い貸し」と「失われた20 年」:日本の経験からの教訓?

著者:三輪芳朗

Abstract

「バブル」崩壊後から今日に至る時期の日本経済の状況を「失われた20 年」と呼ぶことが多い。この期間の日本経済論を一貫する代表的キーワードの1 つが「不良債権」である。関連して、「不良債権の処理」、その「不足」と「遅れ」、「処理」を促進し「解消」させるための「政策」が広く話題となった。「処理の遅れ」は、「不良債権の累積」による「銀行バランスシートの毀損」やその隠蔽工作としての「飛ばし」や「貸し渋り」に連なり、さらに「金融システムの不安定性」「バランスシート不況」、その対応策としての「銀行救済」とその帰結としての「zombie banks」と続く。「処理の遅れ」は、さらに、「貸倒引当金の積み立て不足」「追い貸し」「zombie lending」へとつながり、「融資債権の切捨て」を通じる「不良債務者の援助」による「製品市場の資源配分の歪み」や「追い貸し」による「融資資金配分の歪み」につながる。これらのキーワード群を組み合わせた「不良債権処理の遅れ」が「不況からの回復」「デフレ経済からの脱出」を遅らせ、日本経済の「失われた20年」を生み出したとする見方が広く受容されている。本論文では、「不良債権」をキーワードとする「不良債権問題」と「失われた20 年」に関わる「通説」・「通念」が、曖昧かつきらびやかな用語を羅列する言説の集積物であり、事実誤認と誤解に満ちた、実態からはなはだしく乖離した「神話」であることを示す。本論文では、「不良債権問題」や「失われた20 年」問題に関する「通説」・「通念」を、20 年間にわたって大いに盛り上がった「不良債権」を象徴とする曖昧かつきらびやかな用語が乱舞する「宴」にたとえて、次の如き評価を示す。今日の通説・通念となっている「不良債権」やその「処理の遅れ」に注目する日本経済の「失われた10 年(20 年)」論議を構成する多くの文献は、壮大な規模で長期間にわたって繰り広げられた「宴」に供された「▼▼▼▼のような曖昧だが華美な事柄」を話題(素材)とする「△△△△のようなもの」である。Caballero, Hoshi, and ashyap[2008]や池尾編[2009]所収の諸論文が集大成あるいは象徴的文献として最も著名である。「不良債権」「不良債権処理の遅れ」「追い貸し」「失われた10 年」などが「▼▼▼▼」の代表である。「宴」の内容や雰囲気に無関心あるいは批判的な者は参加していない。一時期参加した後に離脱した者も少なくないかもしれない。

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