ワーキングペーパー

会計

J-series

作成:

番号:CARF-J-088

利益率の平均回帰傾向(8) – 法人企業統計データの頑健性テスト –

著者:大日方隆

Abstract

この論文の目的は,外れ値のスクリーニング方法とモデルを変更してもなお,利益率は産業平均に回帰するという仮説は棄却されないのか,法人企業テータを対象として,その仮説の頑健性をテストすることである。まず,この研究では,サンプルの縮小と拡大の双方について,頑健性を確かめた。少数サンプルが全体の結果を歪めるという意味で,異常値が存在しているが,それを除いた場合の検証結果は,帰無仮説をより強く棄却するものであった。つまり,その異常値を含めたときの判断結果は,その異常値に支配されているわけではない。逆に,全サンプルを分析対象としたとき,利益率と超過利益率の持続性については意味のある結果は得られなかったものの,利益率の平均回帰傾向は観察された。利益率の上下1%を除いても除かなくても,帰無仮説は棄却されることが判明した。さらに,この研究では,異なるモデルによっても平均回帰傾向が観察できるのかを確かめた。利益率それ自体は,自己の平均に回帰するMA 過程をとる可能性があることから,まず,産業平均と自己の過去の平均とのいずれに回帰する傾向が強いのかを検証した。産業平均に回帰する傾向は観察されたものの,自己の平均に回帰する傾向は観察されなかった。また,部分調整モデル(partial adjustment model)は,利益率の変化について,ラグ付き変数を説明変数とする特徴をもち,それが誤差項の系列相関の問題を通じて,分析結果を歪めているのではないかという懸念がある。しかし,その特徴は,結果をとくに歪めていないことがわかった。むしろ,ラグ付きの変数は,平均回帰傾向を記述するうえで重要な役割を果たしている。利益率の変化幅が大きいほど,翌年度はそれを反転させる力が強く働き,利益率の平均回帰傾向とのあいだには相乗効果があるからである。また,利益率が産業平均から遠ざかるほど,産業平均に向けて調整する力が強く働くことが再確認された。利益率の平均回帰傾向は,安定的な自律システムであると推測される。

ダウンロード

全文ダウンロード