ワーキングペーパー

マクロ金融

J-series

作成:

番号:CARF-J-099

異次元の金融緩和:中間評価

著者:植田和男

Abstract

この論文は、いわゆるアベノミックスの第一の矢、すなわち強力な金融緩和政策に対する期待と2013年4月における異次元緩和の実施が、資産市場、実体経済に2013年秋までの時点でどのような影響を及ぼしたかを分析し、この政策の中間評価を試みたものである。分析のポイントは、それまでは効果が限定的といわれていた非伝統的金融政策が、なぜ今回は大幅な資産価格変化(円安・ドル高)をもたらしたのかという点である。論文ではまず、統計的分析により今回の資産価格の反応がやはり過去の非伝統的金融政策に対する反応と異なって大きなものであったことを確認する。次に、こうした資産価格変化の脆弱性を指摘する。すなわち、資産価格変化は国内投資家のポートフォリオ・リバランス効果によるのではなく、ヘッジ・ファンド等の投機的資金に支えられている。また、彼らの一部は経済のファンダメンタルズよりも、近い過去における変数間の単純な相関関係に基づいて行動する傾向がある(例えば、理由が何であれ、ベースマネーが増えると自国通貨安や株高が発生するという期待を持つ)といった点である。もちろん、日銀の行動が以前と変わった面がある(残存期間の長い国債を大量購入し、2%インフレを真剣に目指す)という点も投機筋の行動変化の一因である。他方、長期の経済停滞、デフレを体験してきた国内投資家、物価の反応は鈍く、2015年ごろまでに2%のインフレという目標が達成されるかどうかは予断を許さない。国内投資家の資産リバランスの遅れは、インフレ率が運よく上昇するケースに、急激な国債金利上昇を引き起こすリスクを内包している。

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