ワーキングペーパー

会計

J-series

作成:

番号:CARF-J-040

会計情報の有用性と企業価値評価—— 効率的市場仮説の再検討——

著者:大日方 隆

Abstract

会計情報を利用して超過リターンを得られるかという会計アノマリーの探求は,実践界では重要な価格発見(price discovery)の機能を果たす。また,会計アノマリーは,伝統的な枠組みや理論の再検討を促す貴重な反証材料を提供する。しかし,その異常現象の観察から,ただちに市場の非効率性や投資家の非合理性を主張するのは誤りである。そもそも,効率的市場仮説は理念型であり,それを直接には検証できない。理念型としての効率的市場仮説は,会計情報が公表されると,投資家が瞬時にその内容を正しく理解し,適切な対応をとることにより,会計情報が瞬時に株価に反映されることを含意しているが,現実の会計情報は白黒が明確なことを表現しているわけではない。したがって,異常現象のすべてを,投資家の意思決定バイアスに帰着させようとする行動ファイナンス流の議論もまた,誤りである。投資家は,複雑な情報環境のなかで会計情報を入手しており,その理解には,事前情報と事後情報が必要になることを考慮して,会計情報にたいする投資家の反応を検証すべきである。さらに,会計情報は,たとえば保守主義のような固有の特性を備えており,それが瞬時に正しく情報を理解するうえでの妨げとなっている可能性もある。会計情報に固有の特性が投資家の意思決定にどのような影響をあたえるのかは,従来,会計学が探求してきた主要な検討課題であり,その研究の重要性はますます増している。

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