ワーキングペーパー

金融システム

J-series

作成:

番号:CARF-J-062

世界金融経済危機:危機の原因、波及、政策対応 オーバービュー

著者:植田和男

Abstract

今回の経済金融危機は世界的な規模で長引いた強力な金融緩和による住宅価格とクレジット関連商品の価格に関するバブルの生成、崩壊が基本的な原因である。これに加えて、様々な要因がバブルに関連した金融活動の振幅を大きなものにした。その一つが、商業銀行業務に対する自己資本比率規制が、そうした規制の弱いいわゆるshadow banking systemでの金融仲介を積極化させ、そこを中心としたリスクテークの状況を規制当局に見えにくいものにしたことがある。それもあって金融システムのこの部分への適切な規制とセーフティネットが整備されていなかったことが大きな問題であった。さらに、金融業界におけるその他のインセンティブ構造のゆがみ、米国の住宅政策等が果たした役割も大きかった。影のシステムでの金融仲介も基本的には短期調達、中長期運用という脆弱性をもっており、バブル崩壊後は広い範囲の金融機関・ファンドが取付けにあった。その過程で影のシステム特有の危機波及経路も観察された。また、政策当局による危機の本質の把握に時間がかかり、影のシステムのセーフティ・ネット整備が遅れる中でリーマン・ブラザーズ破産等が発生、危機は一段と深刻化した。しかし、危機の深刻化後は対応はおおむね迅速に進められ、それもあって世界経済は2009年春から回復軌道にある。しかし、2010年春以降のギリシャ財政危機に端を発する金融不安の再度の高まりは、金融危機がまだ完全には克服されていないこと、危機対応で増大した財政赤字、国債残高が次の大きな問題になる可能性を示唆している。本稿は以上の諸点についての文献サーベイを含む分析である。

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