会計
J-series
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番号:CARF-J-093
利益率の分布の偏 – 法人企業統計データの分析 –
Abstract
本研究は,法人企業統計データを対象にして,利益率の分布の偏りを検討したものである。分析の結果,以下の5 点があきらかになった。
第1 に,外れ値を①なにも処理しないか,除外するか,置換するかによって,②除外や置換の数値基準の大きさをどうするかによって,③推定方法に何を選択するかによって,利益率の持続性の係数は異なる。このことは,利益率が大きなあるいは小さな周辺サンプルが,持続性係数の計測に重要な影響をあたえていることを示唆している。
第2 に,上記の多様な推定計算のほとんどにおいて,経常利益率の持続性は税引前利益率の持続性よりも有意に高い。つまり,税引前利益率の持続性を低下させているのは,特別損益項目である。また,トレンド分析をしたところ,経常利益率よりも,税引前利益率のほうが,時系列低下の傾向をより強く示していた。その低下原因も,特別損益にあると推測される。ただし,一般に利益率の持続性が時系列で低下したという経験的証拠は,きわめて限定的であり,それが低下していると断定できるわけではない。
第3 に,利益率の分布の歪度(skewness)を時系列で確かめたところ,税引前利益率と当期純利益率の歪度が極端に低下している(負の方向に歪んでいる)ことが判明した。これは,少数の企業が巨額の特別損失を計上する傾向が強まっている(企業数の増加あるいは損失額の巨額化)ことを示唆している。上記の第2 の点と合わせると,特別損益の時系列動向が,税引前利益率と当期純利益率の持続性の時系列低下をもたらしていると予想される。
第4 に,プロビット,多項プロビットを用いて,営業損失および経常損失と特別損失との関係を確かめたところ,サンプル全体にわたって,利益平準化行動が観察された。時系列のトレンドを分析してみると,営業損失や経常損失を埋め合わせるために特別利益を捻出する傾向は弱まり,反対に,損失を拡大させるかのように特別損失を計上する傾向が強まっていた。これには,減損会計基準の導入の影響と,ビッグ・バス会計の拡大の影響が考えられる。減損会計基準導入の影響をコントロールするために,減損処理のトリガーとなる「2 期連続赤字」と「前期黒字,当期赤字」とを分けて推定してみたところ,「前期黒字,当期赤字」の場合のほうが,「利益平準化傾向の弱まり=損失拡大傾向の強まり」を強く示していた。
第5 に,純特別損益が負,ゼロ,正の3 つの状態選択にともなうバイアスをコントロールしたうえで,経常損失の額と特別損益の額の関係を回帰分析したところ,上記の第4 で示したような,「前期黒字,当期赤字」の企業が損失拡大をする様子が検出された。この検出にあたり,①経常利益の大小で10 分位のポートフォリオを作成し,ポートフォリオごとに回帰分析をするとともに,②純特別損益の大小で10 分位のポートフォリオを作成し,ポートフォリオごとに回帰分析をした。経常利益が大きなポートフォリオと純特別損益が大きなポートフォリオでは,利益を圧縮する利益平準化行動と,利益を補填する利益平準化行動が観察された。その一方で,経常利益が小さなポートフォリオと純特別損益が小さなポートフォリオでは,損失を拡大するビッグ・バス(に見える)行動が観察された。