ワーキングペーパー

マクロ金融

J-series

作成:

番号:CARF-J-113

日本の自発的ロックダウンに関する考察

著者:渡辺努, 藪友良

Abstract

新型コロナウイルスの感染拡大に対して,日本政府は緊急事態宣言を含む施策を行った。本稿では,日本政府の施策がどのようなメカニズムで国民の行動変容を引き起こしたかを検討した。スマホの位置情報データを用いて,人々のステイホームの度合いを示す指標(外出者数 × 外出時間がコロナ前に比べてどれだけ減少しているか)を,県別に日次で作成し,その上で,各施策の開始と終了のタイミングが各県で異なることを利用して,各施策が行動変容を引き起こすチャネルとして,(1) 国民が政府からの要請に従い外出を抑制する効果,(2) 国民が政府の施策のアナウンスメント等をもとに感染状況に関する認識を更新し自発的に外出を抑制する効果,の 2 つを識別した。本稿の主要な結果は以下のとおりである。第 1 に,感染拡大に伴い国民の外出はコロナ前に比べて約 32%減少したが,そのうち政府からの要請に伴う行動変容で説明されるのは 12%ポイントだった。第 2 に,各県における新規感染者数が 1%増加すると,その県の人々の外出は 0.022%ポイント減少した。第 3 に,東京都の外出抑制のうち政府の要請が寄与したのは約 4 分の 1 であり,残りの約 4 分の 3 は政府のアナウンスや日々発表される感染者数など,感染に関する新たな情報を受け取った都民が,感染のリスクをアップデートしたことによって生じた。本稿の分析結果は,感染封じ込めに必要なのは法的拘束力の強い措置ではなく,人々の行動変容を促す適切な情報の提供であることを示唆している。

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