研究会

「財政破綻後の日本経済の姿」に関する研究会(2012-2014)

発足とHomepage開設のお知らせ(2012.8.9)

CARFを基盤として「『財政破綻後の日本経済の姿』に関する研究会」が発足し、7月27日に第2回会合を開催した。ここにWebPageを開設して、これまでの経過の報告および活動の内容・成果をお伝えする。
「財政赤字の削減」「累積政府債務の削減」などの「財政再建」が重大な国民的課題として日本で大きな話題となり、歴史上類例を見ない水準の累積政府債務/GDP比率が世界中の注目を集め始めて久しい。他方、「財政再建」に見るべき進展はなく、累積政府債務/GDP比率の上昇趨勢には鈍化の兆しすら見えない。国債価格は下落せず、国債発行金利も上昇しない。この間、近い将来の財政破綻と国民経済の大混乱を懸念し「財政再建」を急ぐべきだとする声は一貫して小さくはなかった。しかし、その声は、今やオオカミ少年達の叫びの如きものと受け止められているように見える。今日も一部で話題になるのは、「日本の財政は本当に破綻するのか?」「破綻するとすればいつ頃か?」などである。
本研究会の発足は、「財政破綻」の有無や到来時期などの話題に決着をつけるためではない。これらの話題に関わる議論は、「破綻させてはならない」とする判断や希望的観測に基づくことが稀ではなく、日本の「政府」・政治の実情を軽視・無視するものも多いように見える。結果として「破綻」の内実および破綻に至る過程に関する議論は具体性に乏しく、「破綻」後の姿や混乱の実質的内容はほとんど話題にならない。
われわれは日本の財政破綻は「想定外の事態」ではないと考える。参加メンバーには、破綻は遠い将来のことではないと考える者も少なくない。現時点でも国債価格が大幅に下落せず維持されている状況を不可解だと考え、その原因・メカニズムの解明に重大な関心を抱く者もいる。
「『財政破綻』をどのように定義するか?」「その到来を誰が判定するか?」「いかなる形態で現実化するか?」などの論点を実質的に棚上げし、「財政破綻」後の日本経済の姿を予想し、破綻後の展開のscenariosを示し、そこで直面することになる各種「課題」を浮かび上がらせることが研究会の活動の中心的課題である。「財政破綻」に伴う混乱は医療・社会保障や教育から社会インフラの整備・維持、社会秩序や治安の維持に至る国民生活全般に及ぶ。この意味で「財政破綻」に関わる検討課題は財政問題・金融問題に限定されない。そのような限定は中心的検討課題から目を逸らすことになる。
少なくとも日本に関しては、「財政破綻」という表現に象徴される一連の現象に関わるものは、politically and/or socially sensitive issuesであり、話題にしにくい状況であった。われわれの活動・研究成果の提示を通じて、財政破綻および破綻後の混乱に備えるための方策が話題になり、さらに破綻後の状況をも想定した各方面での対応進展の一助となることも研究会の狙いの一環である。少なからぬ経済主体が「財政破綻」の到来を想定して前向きに対応する(対応をすでに開始している)だろう。この点にも検討の焦点を合わせ、そのような活動・趨勢の累積結果が財政破綻時に一挙に顕在化し「想定外の事態だ」として多くの国民・関係者を驚かせ当惑させる度合いを低下させることにも関心がある。
呼びかけ人である貝塚啓明・三輪芳朗および井堀利宏の3名が代表を務め、林正義・新井富雄が事務局を務める。CARFに事務拠点を置き、東京大学を中心とする多くの大学から多数の研究者が参加する。
自由な問題設定と研究・討議の場であることが研究会の基本的役割である。結論・意見の集約・統一を企図し、あるいは報告書を作成し公表することは想定していない。参加メンバーが単独あるいは共同で進める研究・討議を基本とし、研究の内容・方針・進捗状況に関わる意見交換や関連情報の収集に向けた全体会合をほぼ定期的に開催する。
メンバーによる研究成果・意見公表に制約はない。一部は研究会WebPage に公表されるはずである。全体会合の場での報告や討議の内容を含めた研究会活動全体の概要と関係資料をWebPage に掲載する予定であるが、自由な活動の支障とならない範囲に限られる。検討課題が多岐にわたり、少なからぬ検討課題が重大かつ複雑である。研究会運営の将来見通しは不透明・不安定である。研究会活動は本年末までとしてスタートすることとした。
皆様には、本研究会の活動に関心をお持ちいただくと同時に、今後の活動に対するご理解と温かいご支援をお願いする。

代表: 井堀利宏(東京大学大学院経済学研究科教授)
貝塚啓明(東京大学名誉教授)
三輪芳朗(大阪学院大学教授・東京大学名誉教授)
事務局: 新井富雄(東京大学大学院経済学研究科教授)
林正義(東京大学大学院経済学研究科准教授)

会合議事録 / 資料

第1回会合
2012.6.22(金) 議事録
三輪芳朗「論点整理メモ」:
「もはや『このままでは日本の財政は破綻する』などと言っている悠長な状況ではない?」
第2回会合
2012.7.27(金) 議事録

【前半資料】

上田淳二「日本の財政に関する長期シミュレーション」

【後半資料】

西村周三「財政破綻と社会保障―貧しい想像力をもとにー」

「社会保障の正確な理解についての1つのケーススタディ――社会保障制度の“世代間格差”関する論点――」

「OPINION 事前積立金の本質は何か:引退世代と現役世代のWin-Win政策」

三輪芳朗「論点整理メモ:年金」

第3回会合
2012.8.23(木) 議事録
三輪「論点メモ」
第4回会合
2012.8.28(火) 議事録
神山一成「長期金利の水準評価」
2012.9.20(木)
論点整理メモ2
※ 会合の記録ではなく、研究会メンバーの参考資料として作成された「論点整理メモ2」です。
第1回会合で報告の素材とした「論点整理メモ」の続編です。
第5回会合
2012.9.26(水) 議事録
井堀利宏「なぜ歳出削減は容易でないか?」
第6回会合
2012.10.10(水) 議事録
福井義高「鉄道は生き残れるか:ある公共事業の半世紀」
第7回会合
2012.10.19(金) 議事録
上田淳二「政府支出の規模について」
第8回会合
2012.12.10(月) 議事録

林正義「夕張」

林正義「生活保護と財政移転制度」

後者の途中(sheet 57)に登場する林(2011a)とHayashi(2011b)については下記を参照してください。
いずれも生活保護に関する基本的な情報です。

生活保護と地方行財政の現状 ⎯ 市単位データを中心とした分析 ⎯

生活保護費と財源保障

第9回会合
2013.1.25(金) 議事録

貝塚啓明「曲がり角にきた日本の社会保障」

貝塚啓明「社会保障制度の改革:社会構造の変化への適応が急務」参考資料(1)

貝塚啓明「社会保障制度の国際比較」参考資料(2)

貝塚啓明「社会保障と貧困問題」参考資料(3)

第10回会合
2013.2.8(金) 議事録
福井義高「FTPL(Fiscal Theory of the Price Level)の視点から見た国債発行とインフレ・ターゲット」
第11回会合
2013.4.12(金) 議事録

三輪芳朗「『財政破綻』へのプロセスと“Abenomics”祭りあるいは騒動」(文書)

三輪芳朗「FTPLから見た“Abenomics”と『財政破綻後の日本経済の姿』」(slides)

第12回会合
2013.6.29(土) 議事録

斉藤都美「ソ連・ロシアの医療・健康問題と日本へのインプリケーション」

斉藤都美「資料編」

第13回会合
2013.9.6(金) 議事録

福井義高「ハイパーインフレーションの原因と結果:第一次大戦後のドイツの経験から」

福井義高「資料」

第14回会合
2013.9.27(金) 議事録
橋本英樹「財政破綻は医療を破綻せせるか? 話題提供のためのメモ(加筆後)」
第15回会合
2013.9.27(金) 議事録
太田亘「市場流動性とマクロ経済」
第16回会合
2013.10.28(金) 議事録

三輪芳朗「FTPL、Hyperinflation、“Abenomics”と『成長戦略』:政策決定過程と所得分配」(報告用スライド)

三輪芳朗「FTPL、Hyperinflation、“Abenomics”と『成長戦略』:政策決定過程と所得分配」(資料)

第17回会合
2013.11.15(金) 議事録
倉澤資成「D.Greenlaw, J.D.Hamilton, P.Hooper, and F.S.Mishkin, “Crunch Time: Fiscal Crises and the Role of Monetary Policy,” Revised July 29, 2013について」
第18回会合
2013.12.3(火) 議事録
福井義高「銀行規制と国債管理:発想の転換のすすめ」
第19回会合
2014.2.20(木) 議事録
福井義高「2013年ノーベル経済学賞に見るファイナンス実証研究の動向」
第20回会合
2014.6.20(金) 議事録
新井富雄「投資家の期待形成 ‐ Greenwood/Shleifer(2014)を糸口に ‐ 」
第21回会合
2014.8.27(水) 議事録

福井義高「市場の「合理性」と資産価格モデル」

三輪芳朗「期待と期待形成: 日本国債の価格に関連して」

第22回会合
2014.10.3(金) 議事録
角間和男「日本の国債市場と投資家行動」

会員名簿

(2012年8月9日現在)
名簿掲載を了承したメンバーのみ。所属機関については、名誉教授あるいは前職を含む。

東京大学井堀利宏
東京大学貝塚啓明
東京大学・大阪学院大学三輪芳朗
東京大学林正義
東京大学新井富雄
東京大学大橋弘
東京大学橋本英樹
東京大学柳川範之
青山学院大学福井義高
大阪大学太田亘
お茶の水女子大学大森正博
社会保障・人口問題研究所西村周三
上智大学中里透
一橋大学加納隆
明治学院大学斉藤都美
明治大学田中秀明
横浜国立大学倉澤資成
早稲田大学小西秀樹